建築家・中村拓志氏インタビュー第1弾《HOUSE SH》

建築家・中村拓志氏。原宿の東急プラザや羽田空港第2旅客ターミナルビルなどを手掛たことで有名だが、実は住宅設計も多数手がけられていることをご存知だろうか。
この連載では、中村氏からLIMIA読者のみなさんに向けて、設計するときに意識していることやこだわりを分かりやすい言葉で丁寧に語っていただく。
新築・リフォームに関わらず、みなさんが「住むための空間」について考えるときのヒントとなることがきっとあるに違いない。

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photo by Tadanori Okubo(LIMIA編集部)

インタビュー第1弾でお話ししていただくのは都会の密集地にある建築。
真っ白な壁から球体が押し出されているような外観を持つこの建築に、道行く人は足を止めてしまうだろう。小さな美術館のようにも思えるこの建築は、実は個人住宅。
三方を建物に囲まれ、唯一の採光面が北側道路という立地条件の中で生まれた、この住宅のコンセプトと彼の根底にある『振る舞いのデザイン』について詳しくお話をうかがった。

中村氏の設計の根底にある『振る舞いのデザイン』とは

建築設計っていうと、形のあるハードなものをデザインするというイメージがあると思いますが、僕はその空間の中で生きる人の振る舞いそのものを見つめて、それに寄り添うようにデザインしていきたいなと。

例えば、部屋の隅っこ、壁のカドがあるじゃないですか。ここに背中をくっつけてじっとしていると妙に落ち着くっていうか。それって言うならば動物が本能的に感じる安心感みたいなものかなって。だから子どもってよくスキマに挟まってたりするわけですけど(笑)。

そういう風にずっと壁に背中をつけてると、そのうち、建築と自分の身体っていうそれまではバラバラだったものの境界がなくなっていく。なんとなく一つにまとまっていくような感覚になると思うんです。
人間と外との境界っていうのは、一番最初は皮膚。次に服の層、その次に建築っていう層があるんですよ。建築と一言で言っても、たとえばブラインドがあったり窓があったり。そして壁の部分だと、内装仕上げがあって次に内装の下地と構造壁があって。構造壁のさらに外には防水層や外壁の仕上げの層がある。さらにその外には、町や都市の層、またさらに外には大気の層がある。
つまり、僕らはたくさんの層に包まれいて、守られるように生きている。建築っていうのは、そのたくさんの層の中のひとつ、ある特定の一部分に過ぎなくて。本質的には全部一つながりなんです。

僕は、壁にもたれるという振る舞いによって皮膚・服地・建築の層の一体感が生まれるっていう、その独特の感性がすごくいいなと思うんですよ。それはもしかしたら、僕らが一番最初に体験する空間―つまりお母さんのおなかの中―での根源的な体験を再現しているのかもしれないって。
そういった誰もが経験したことのある行為とそこに内在する感覚を堀り起こしていく。そういう家を建てたいなって。

photo by Daici Ano

僕は、体と建築が触れ合う瞬間をたくさん作ることで、ジーンズに感じるのと同じような愛着が生まれるんじゃないかと考えたんです。それで「建築と触れ合う瞬間をデザインすること」に取り組むことにしました。

物理的条件の克服から生まれた振る舞いのデザイン

この住宅は三方向に建物があって、採光面が道路側しかなかったんです。ただ、その道路に面しているのも北側で。
こっちが北側ということは、つまり向かいのマンションは南側。無理に窓を作っても、目の前には向かいのリビングの窓がこちらを向いていてお見合いしてしまうんですね。
大きな窓作ってもカーテンを閉めっぱなしになってしまうのは逆にすごくネガティブになってしまう。都市に対して拒絶してるような。
それに加えて、オーナーは両親ともに夜が遅く、小さな子どもたちが遅くまで二人きりなのが心配ということもあり、あまり窓を作りたくないというオーダーもありました。

それであれば窓は開けないで、ライトウェルという光の井戸とも呼ばれる採光方法にしようと思ったんです。天井から光を入れて、曲面壁で受けて、反射させて、拡散させて、採光をとる。
道路に面して駐車スペースを確保して、あとはなるべく容積を大きくとって。そうしたら、まだ建蔽率がまだ余っていたので、建蔽率が(60%の規定に対して)59.99%になるまで内側からぐーっと押し出したのがこの形なんです。

photo by Daici Ano

この空間は、幅が4メートルくらいで表面はツルっとした素材でできてるんですけど、ただ四角く出すより、曲面にした方が写真のホリゾントみたいな感じで奥行きを感じさせないので、曲面にしたほうがいいかなというのもありました。
そして、ちょうどその押し出した部分がリビングだったので、その壁に座れるような形にしたんです。

そうしたら、子どもたちは何度も何度もスノーボードのハーフパイプみたいに走り下りたり滑り台にしたり。本当にいろんな方法で建築にふれて遊んでましたね(笑)。

こういうものがあることで自然と毎日の生活の中で身体が建築に触れていくんですよ。
これを繰り返していくと、もしかしたら、いや、おそらく、この家に住む人―特に子ども―って建築にものすごく愛着を感じてくるんじゃないかって思ったんです。

そして何度も同じ振る舞いをその空間で繰り返し、その建築と触れ合うことで生まれた愛着は、家族の共通の原体験になるんじゃないかって。そういうのって大事なんじゃないかって思うんですよ。

最後に、中村氏にとってこの建築とは?

人と建築の関係性だったりコミュニケーションをデザインすることに目覚めていく、そんなきっかけになった建物ですね。


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中村拓志(なかむら ひろし)

1974年東京生まれ。神奈川県鎌倉市、石川県金沢市で少年時代を過ごす。
1999年明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。
2002年にNAP建築設計事務所を設立し、現在に至る。建築をコミュニケーションデザインと考え、人が自然や建築と関わり、愛着を感じることをモットーに設計している。

代表作に「狭山の森 礼拝堂」、「Ribbon Chapel」、「Optical Glass House」、「録museum」など。
主な受賞歴にJIA環境建築賞、日本建築家協会賞、リーフ賞大賞などがある。
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中村拓志氏のインタビュー第一弾、いかがでしたか。ムズカシイと思っていた建築が少し身近に感じられたのではないでしょうか。
子どもたちが遊んでいる様子を語りながら、思わず表情がほころんでいた中村氏がとても印象的でした。

◆Text:LIMIA編集部

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