風景に溶け込む、築40年の平屋でスローな暮らしを満喫【我が家の暮らし #1】

昨今、ゆったりと暮らしを楽しみたいたい人々に人気の、郊外での平屋住まい。頭上に広がる空の下、庭や縁側が内と外をむすび、フラットな空間には心地よい風が吹き抜けていきます。“ひとつ屋根の下に暮らす”という、家の原型のような平屋は、住まいに、そして暮らしに、本当に必要なものは何かを、そっと語りかけてきました。

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室内から室内、外庭へと気持ちよく視線が抜ける

吾妻山(神奈川県中郡)の麓に咲く梅の花を眺めながらしばらく行くと、住宅街のなかに、緑に囲まれた一軒の平家が現れました。隣家への日照や通風を妨げることもなく、控えめな佇まいの小さな家。建てられた当時の趣を残す、築40年の平屋のお家におじゃまします。

「この前、植えたチューリップの芽が出たよ」と2人のお子さんに発芽を知らせる、奥さんの優子さん。「何色を植えたんだっけ?」「ピンクだよ!」「きいろだよ!」など楽しそうな声が花壇から聞こえてきます。駐車場を兼ねた庭先には、優子さんが植えたローズマリーなどの草木が繁茂し、縁側の陽だまりにはカウチが置かれています。

「ここは僕のお気に入りの場所です。これからの季節、ここでビールを飲むとうまいんですよ」とご主人の哲さん。藍染めののれんが風にそよぎ、風が通り抜ける気持ちの良い縁側。カウチに寝転び、グラスを傾ける至福の時間。さぞやおいしいことでしょう。

カウチが置かれた縁側の先には、薪ストーブが鎮座しています。こちらは哲さんの愛用品で、休日などには庭に出し、近所の山で拾って来た薪をくべて焚くのだそう。

縁側は日本の住宅文化において、外と内をつなぐ重要な空間として存在してきたと言われています。庭から家に出入りしたり、近所の方がここに来て、家の人と座って話をしたり、夏の夜には夜風を取り入れ涼をとるなど、その利用法はさまざま。

先日、薪ストーブでピザを焼いてみんなで食べたのだそうです。子どもと一緒にピザを作り、それを哲さんが焼いて縁側に座って焼きたてのピザを頬張る。夏場にはテーブルを出して、みんなで素麺をすすることもあるのだとか。想像するだけで、楽しそうな笑顔が浮かんで来ます。

工夫して楽しく上手に暮らす

縁側から家の中へ上がると、障子を隔てて、10畳と6畳の2間が続き、リビングのような存在になっています。そしてその奥に4.5畳の部屋があり、ここは洋服などをしまう物置きに。窓が大きくとられ、すりガラス越しにやわらかな陽射しが差し込みます。

ふたりで住む家を探しているとき、隣町の大磯、茅ヶ崎や辻堂などでもいくつかの家を内見し、数軒の平屋も見てまわったという哲さんと優子さん。どこも素敵だったけれど、なんとなく決め手に欠ける。もう少し探す範囲を広げてみようと、ここ、二宮町まで足を伸ばし、出会ったのがこの物件だったのだそう。

「この家の中を見せてもらったら、天井が高くて開放感があって、部屋に差し込む光もきれいだなあと思いました」と優子さん。勝手口に作られていた井戸にも惹かれ、この家に即決したのだそうです。

昔ながらの建築が取り入れられた居室。10畳の部屋の天井は「船底天井」になっています。船底天井は天井の中央部分が両端より高く船底のような形に造られており、部屋を広く見せる効果がある伝統的な造り。のびやかに天井高を高く、隣の居間は天井高を抑え落ち着いた雰囲気といった具合に部屋の性格によって変わっています。

天井と障子との間には「欄間(らんま)」と呼ばれる開口部があり、これは採光や通風、換気、装飾などを目的に造ります。こちらのお家では彫刻が施された欄間もあります。

ふすまや障子、引き戸をはめこむ溝の部分「鴨居(かもい)」の上に取り付けられる「長押(なげし)」は、柱と柱をつなぐ役割を果たすもので、長押と壁の間には隙間があります。哲さんは、ここに大きなカラビナを掛け、ザックを吊るしたり、ディスプレイラックとして物を飾ったりしています。

長押に飾られた哲さんのお気に入りの物たち。本や古道具などをこうして飾ると、物としての魅力が引き立てられます。ここでは、コーナーに板を渡してちょっとした物置きスペースを作っていました。日本の伝統建築の造りを利用したグッドアイデアですね。

築40年の建物なので、多少の傷みはあったけれど、室内灯のシェードを替えたくらいで、あとは入居したときのまま。もともとあったものは基本的に変えることなく、この家の雰囲気に合わせて、家具などを付け足していったのだそうです。

各部屋のコーナーには古道具が並んでいます。これらは哲さんが鎌倉の道具屋さんやアンティークショップなどで見つけてきたものなのだそう。知人の作家さんの作品を、古道具屋さんで見つけてきた鉄カゴに入れ素敵にディスプレイしています。

本棚の替わりに使っているのは脚立。道具に刻まれたキズやエイジング感が、部屋の古い趣にしんなりとなじんでいます。「この家の雰囲気、レトロすぎない質感が自分たちにはちょうど良いかなと思っています」と哲さん。

「でも隙間風がすごいんですよ、ココ見てください」と、木戸や窓ガラスの隙間を見せてくれました。たしかに……隙間から冬の冷たい風が入ってくるとちょっと寒そう。昨今の家のように断熱材が使われているわけではないので「冬は本当に寒いし夏は暑い」のだそうです。でも、工夫次第でなんとかなる、と力強い。

寒さが厳しいときは石油ストーブを点け、しっかり厚着をする。夏場は窓を全部あけて風の通りをよくして、蚊帳を垂らしてみんなで寝る。このアラジン社の石油ストーブは、引っ越しのお祝いにと、哲さんのおばあさまが贈ってくれた大切なものなのだそうです。

哲さんと優子さんがこの家で暮らしはじめてから9年目を迎えます。その間に、2人の子が生まれ、現在は4人で暮らしています。お兄ちゃんがもう少し大きくなったら、こども部屋を作ってあげないと、と少し先の将来を考えつつ、いまは10畳の部屋で、家族みんなで雑魚寝をしているのだそう。

平屋の良さは「家族間でコミュニケーションしやすいこと」と優子さんは言います。部屋のどこにいても姿が見えたり、声が聞こえたり、家族の気配を感じられる。そんなところが平屋の魅力のひとつなのだそう。

哲さんも「家族を感じることができる」ことが魅力であり、なおかつ、家のなかで過ごしているときも、視線が水平方向に抜けて、伸びやかで開放的な空間体験が得られることが心地よいそうです。

四季を身近に感じながら季節に応じて暮らす

台所をのぞかせてもらうと、テーブルの上に大根が置いてありました。「近くの畑で採れたものです」と優子さん。近所の方から畑を借りて野菜の栽培をしているそうです。

畑へ案内してもらいました。こどもたちが走り、「おかあさん、キンカン食べていい?」とお兄ちゃん。畑に1本植えられているキンカンの木から実をもぎって、口に入れます。最初は1区画からスタートし、いまでは、貸主の方がご高齢で畑仕事がきびしくなってきたため、優子さんがお手伝いをしているのだとか。できた野菜や果物はご近所さんや友達におすそ分け。

畑からの帰り道、沈む夕陽が町をきれいに黄金色に染めていきます。家々からは生活の気配を伝える明かりがポツリ、ポツリと灯りはじめます。

収穫したねぎを抱えて家につくと、磨りガラス越しに明かりが見えました。その明かりはとてもやわらかく、家路につくご近所さんたちにも安らぎを与えてくれることでしょう。

家族がひとつ屋根の下に暮らすシンプルな平屋のお家。「砂壁がとこどころ崩れてきているので、今年は漆喰を塗ったりして、少しずつ手を入れていこうかと考えているんです」と優子さん。不都合があれば直して、足りないところは作り、足していく。

その空間にいる時間を楽しめるように、豊かに感じられるように整えることが、きっと心地よい空間へとつながっていくのでしょう。家を少しコンパクトにしても、ひとりひとりの個室がなくても、そこから生まれる豊かさがあるのではないか、そんなことを感じさせてくれるお家でした。

●ライター 忍章子

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