2世帯住宅でも非日常の空間を実現!ひとつ屋根の下で心地良く暮らせる住まいとは?

食事、睡眠、家族との会話…。それはまさに自宅における「日常の暮らし」そのものです。しかし、施主であるSさんご夫妻が住まいに求めたのは「非日常の空間での暮らし」。さらに、息子さんご夫婦との同居が決まり、S邸のプランは2世帯住宅へと変化していきます。ひとつ屋根の下で2つの家族が適度な距離感を保ちつつ、非日常空間が感じられる住まいを実現したのは、腰越耕太建築設計事務所代表の腰越耕太さん。今回は、相反する要素を見事に両立した家づくりをご紹介します。

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求められたキーワードは「非日常の空間で暮らしたい」だった

吹き抜けのガラス張りのリビングは、高級感と開放感を両立している。まるで美術館のギャラリーのようだ
腰越さんこだわりのグレーの珪藻土が見事に調和したリビング。この色合いを活かした照明が室内にレイアウトされている

福島県在住のSさんご一家。2011年の東日本大震災で、ご自宅が傾いてしまう被害に遭われた。修繕も可能だが、地盤の傾きを直すだけでもかなり費用が必要だった。そんなときに出会ったのが建築家である腰越耕太さんだった。調査した結果、地盤の傾きを直し、補強するだけでなく、家屋の修繕も必要であることが判明した。そこで腰越さんは、建て替えを提案したのだという。

「Sさんご夫妻は、休暇の際、高級旅館やリゾートホテルに宿泊して日ごろの疲れを癒していると伺いました。そんなご経験から"非日常の空間で暮らしたい"という希望をご自身の住まいに求めていらっしゃいました。さらに、"巣立ったお子さんたちがお孫さんを連れて泊まれる部屋が欲しいこと"、"駐車スペースが充実していること"が、今回の主なリクエストでした」と腰越さん。

しかし、S邸の設計段階で、思わぬ形で仕様変更が決まったのだ。「息子さんが仕事の関係で帰郷することになったんです。Sさんご夫妻と息子さんのご一家が同居することになり、2世帯住宅に仕様変更しました。Sさんご夫妻と息子さんご夫婦、嫁・姑にあたるお嫁さんとの関係性が非常によい印象だったこともあり、敢えて完全な2世帯住宅にはしませんでした。それでいて、ゆったりとした間取りで、それぞれのご家族にとってほどよい距離を保った設計を心掛けました」と腰越さん。

こうして、Sさんご夫妻の"非日常の空間で暮らしたい"というリクエストを叶えつつも、お互いに気配を感じられ、適度にプライバシーが保てるという、相反する要素を見事に両立したS邸のプランがまとまっていったのだ。

2家族が暮らす日常と、ダイナミックな造形のリビングが織りなす非日常空間の両立

2階のリビングにいながら外部空間を連続的に感じられる。左手はスタディーコーナとなっており、お孫さんを見守れるので安心だ。
2階からリビングを見下ろすとこのような景色となる。階段が空中に浮いているかのようにも映る

2世帯住宅であれば、玄関が2つあるケースも少なくない。しかし、S邸の玄関は1つだ。Sさんご夫妻と息子さんご一家の関係性に配慮した腰越さんならではの設計といえるだろう。ガレージには4台分の駐車スペースが設けられており、Sさんご夫妻および息子さんご夫婦のクルマが余裕を持って置ける。

エントランスを入ると、吹き抜けのある大きなリビングがある。中庭に面した幅約5m×高さ約6mほどの大開口が、自宅にいながら非日常空間を演出するのに一役買っている。さらにリビングからは、シアタールーム、和室、ダイニングキッチンへと空間が連続しており、ひとつのつながりを感じさせるつくりとなっている。そして、リビングと他の部屋に40cmの段差を設けることで、より空間の広がりを感じさせてくれる。S邸のダイニングおよびキッチンは1階にあり、2世帯が1つのテーブルを囲んで食事をすることができる。

2階は、もうひとつのリビングと、それぞれの寝室と子ども部屋、スタディコーナー、トイレおよび浴室という構成となっている。そして3階は物置と物干し場、バルコニーという構成だ。「2階のリビングは息子さんとそのお子さんたちのスペースにもなっています。プライバシーをある程度確保しつつ、それぞれの家族が声や気配を感じ合える距離感となっています」と腰越さん。

S邸の室内空間を彩るグレーの壁は、腰越さんのアイデアによって実現したポイントのひとつだ。「室内の壁はグレーの珪藻土で仕上げてあります。Sさんご夫妻も、当初はこの色に戸惑いがあったようです。しかし、結果として私の案を採用していただき、間接照明やペンダントなど、このグレーの壁を活かした照明効果を得ることができたので、ご満足いくものになったと思います」と腰越さんは語る。

Sさんご夫妻が求めていた"非日常の空間で暮らしたい"というご希望を叶えつつ、腰越さんは日常生活への配慮も忘れていない。「S邸を設計する際、充分な収納スペースを確保し、新たに家具を買い足す必要がないように心掛けました。素材や色合いなど、この住まいと合わせることで、少しでも非日常の空間を演出したかったのです。また、2世帯がひとつ屋根の下で暮らし、さらに息子さんご夫婦のお子さんが増えることも想定して水回りを設計しています。また、全面床暖房とすることで冬場は暖かく、夏場は暖かい空気が上層階にとどまらないように、風通しにも気を配っています」と腰越さん。

"非日常の空間"に関する定義は人それぞれだろう。しかし、非日常の空間が、住みにくい空間になってしまっては本末転倒だ。S邸のように、2世帯住宅でありながら、それぞれの家族が適度な距離感を保ちつつ、お互いの存在を感じられるだけでなく、Sさんご夫妻のリクエストだった"非日常の空間"をも演出する。この絶妙なバランスを保った住まいが生み出せるのも、腰越さんの豊かな感性とクリエイティブな発想があればこそだ。建築家が手掛けたからこそ完成した住まいが、またひとつ誕生したといえるだろう。

プライバシーの守られる目隠し付きの、通りに面したバルコニー。隣にある小さな公園が、自宅の庭のように風景に溶け込んでいる

腰越 耕太

株式会社腰越耕太建築設計事務所

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