北海道新幹線に失敗の選択肢はない

「人気がない」「利用者がいない」「無駄」いろいろ言われる新幹線。でも実際は地方を活性化するために極めて有効な設備投資です。

街ネタでもなんでも良いと言われているので、今日は街のために作られる新幹線について書きましょう。新幹線は、みんなを幸せにするために作られるのです。

(初版は2016年3月26日です。若干事実誤認等について修正を加えていますが、基本的に当時の内容です)。

東海道・山陽・東北(盛岡まで)・上越新幹線とそれ以外の新幹線の違い

一般にはあまり知られていませんが、実は新幹線にはいくつかの分別方法があります。中でも大きなのが、日本国有鉄道が事業を開始した東海道・山陽・東北(盛岡まで)・上越新幹線とそれ以外の新幹線をわける「整備新幹線かそうでないか」というわけかたです。

整備新幹線、それは「建設を開始すべき新幹線鉄道の路線を定める基本計画」のうち、1972年の「改正基本計画」以後の基本計画で当時の運輸大臣が定めて公示した新幹線をいいます。盛岡以北の東北新幹線・山形・秋田・北陸(長野)・九州・そして北海道新幹線はすべてこれのうちに入ります。これらの新幹線は大臣が「作るべきである」と言ったので、作られているんですね。では、なぜ「作るべき」なのでしょうか。

新幹線を整備すべき理由

我が国には、新幹線とはなにかを定義し、それを作るべきであると定める、れっきとした法律があります。その名も「全国新幹線鉄道整備法」です。この法律の目的は第一条に記されています。法律に著作権はないので、全文転載しましょう。

この法律は、高速輸送体系の形成が国土の総合的かつ普遍的開発に果たす役割の重要性にかんがみ、新幹線鉄道による全国的な鉄道網の整備を図り、もつて国民経済の発展及び国民生活領域の拡大並びに地域の振興に資することを目的とする。

つまり「新幹線があればみんな幸せになるから作る」と書いてあります。根拠を無視すれば、反対の余地がない、まことにわかりやすい文章です。

新幹線とはなにか

作ることにした新幹線とはどのようなものであるかは、第二条に定義されています。

この法律において「新幹線鉄道」とは、その主たる区間を列車が二百キロメートル毎時以上の高速度で走行できる幹線鉄道をいう。

幹線の定義は難しいので省略しますが、つまるところ「大勢の人が使う線路のほとんどを時速200km以上で走る鉄道は新幹線」と書いてあるわけです。この二つの条文からわかるのは「大勢が高速に移動できればみんな幸せになるから作ろう」ということになります。

実は新幹線じゃない山形・秋田新幹線

さて、この定義に従うと実は山形新幹線と秋田新幹線は新幹線ではない、ということがわかります(鉄道ファンの皆様、博多南線およびガーラ湯沢線については端折ります)。山形新幹線も秋田新幹線も、その区間の最高時速は130km。なんと私鉄最速の時速160kmを誇る、京成スカイライナーにも劣る速度でしか走行できません。この二つの新幹線は「新幹線の車両が特急としてそのまま乗り入れている在来線」という扱いなのです。

速いだけじゃない、新幹線の特徴

東海道新幹線は大勢の人を毎日運びます。その輸送力を安定して供給するために、JR東海は同じ編成定員の車両を大量保有しており、日々改良に励んでいます。

新幹線の特徴と言われてすぐに思いつくのは「速い」ことです。わたしは青森が好きで、よく青森に行きますが、自動車なら一晩かかる距離を、新幹線は3時間半で走り抜きます。しかし、先の法律は新幹線の特徴をもう一つ表しています。「大勢が乗れる」ということです。

日本で最も輸送人員の多い新幹線鉄道は、もちろんJR東海の利益の8割を叩き出す東海道新幹線です。JR東海という会社は、新幹線で稼ぐだけ稼いで、ほとんど赤字のローカル線を支えているのです。この東海道新幹線の輸送力、つまりどれほど大勢が乗れるかを示す値を比較で表してみましょう。

まず、東海道新幹線の最新にして主力車両N700系1編成の定員は1323名です。大して全日空が最も多く保有する最新機種B787-8の定員は設定によっても変わりますが、最大でも335席、新幹線のグリーン車の1.7倍程度の座席数です。

(B787-8の国際線定員と国内線定員を取り違えていたので修正しました)

一日あたりの輸送人員で言うと、約43万人。これは東武野田線と同じぐらいの輸送人員数ですが、いかんせん柏から船橋という区間で、どんな混み具合かわたしは想像できません。東京理科大学のオープンキャンパスに行った時しか乗ったことがありません(絶対に合格する可能性のない大学のオープンキャンパスに何故行ったのか今となっては理解不能。まあレーダについて話したり、未だに謎の問題を出されておもしろかったんですけど。)。似たような輸送人員数のところを探すと、ベッドタウンが広がる千葉北西部から東京へと通勤する人が大勢いる京成本線が49万人、また、浦和あたりのベッドタウンからやはり都内へと繋がる東京メトロ(危うく営団と書くところでした)南北線が35万人ですから、その大勢っぷりがわかるでしょうか。

成功した九州新幹線

N700系新幹線電車S・R編成は東海道・山陽新幹線に配備されているN700系Z・N編成と外形は酷似していますが、九州新幹線の急勾配に対応するなど幾つかの点で大きく異なる仕様となっています。

さて、整備新幹線のうち「新幹線」と法律で定義されている3つの新幹線の中でも、九州新幹線鹿児島ルートと、建設中ではあるものの北陸新幹線は、成功したとされています。

九州新幹線は、まだ部分開業だった一年目にして、在来線しかなかったころに比べて2.2倍の人員輸送を行いました。文句なしの成功と言えるでしょう。そして、あの不運に見舞われた――個人的にはいろいろ書きたいこともあるのですがここは我慢して――全線開業を迎えると、一気に輸送人員は部分開業時の3倍近くまで成長しました。

一方で在来線に対する成長率は1.4倍程度に抑えられ、JR九州の目標値を下回りましたが、今に至るも微増しており、在来線時の4割増と考えれば充分「地域の振興に資する」目的を達成したと言えます。乗る人が増えた、ということは、間違いなく人が移動しているわけで、生活領域は広がっています。そして、JR九州の懐に金が入ったということは、その金が少なからず九州に落ちて、当然日本国民である九州の人々の経済は発展しているわけですから。

また九州新幹線について注目すべき点は「東京発の列車はない」ということです。これには様々な理由がありますが、九州新幹線の中で一番長時間走行するのは新大阪発鹿児島中央で、「東京からの時間」というのはハナから相手にされていません。それでも九州新幹線が成功したということは「東京から何時間の距離になったから」という物差しで見られがちな新幹線にとって大切なことなのです。

失敗が騒がれた北陸新幹線

北陸新幹線が開業するまで首都圏と北陸を結んでいた北越急行ほくほく線を走る特急はくたかです。時速160kmで驀進したはくたかは廃止までに130億円の内部留保を北越急行にもたらし、「雪での運休を避ける方法は列車を走らせ続けること」という信念の元、豪雪地帯に安定した公共交通機関として君臨し、人々の生活をより良くしてきた鉄道会社の存続を支えています。

一方、北陸新幹線は記憶に新しい一年前、北陸新幹線は「ガラガラ」「乗車率が3割に満たない」と非難されていました。まったく人の乗っていない車内の写真がインターネット上にアップロードされ、「失敗」の烙印を押されていました。しかし、これはまったくの間違いです。

まず、新幹線の輸送力が異常に巨大だということを念頭におくべきです。繰り返しますが、大勢が乗れることは新幹線の目的なので、大勢の人間が乗れない新幹線は目的に見合っていません。

北陸新幹線の前身である北越急行とJR東日本および西日本によるはくたか(以下北越急行はくたか)の車両の一つであった683系の編成定員は536名ですが、北陸新幹線の主力E7系およびW7系の編成定員は934名ですから、1.7倍の定員数になっています。したがって、683系の乗車率が「仮に」東海道新幹線の平時の乗車率と同じ60%なら、E7系およびW7系においては34%程度に低下します。

そして、運転本数も極端に増えています。北越急行はくたかは1日13往復、対して北陸新幹線の東京金沢直通便かがやきは10往復、はくたかは14往復あります。合計24往復です。したがって1.8倍に運転本数は増えていますから、最終的に北陸新幹線への転換により18%程度の乗車率になって当然なのです。そんな状況下で予約率25%を出しているということは充分良い結果であったと言えるでしょう。

低い乗車率の価値

新幹線の競合として扱われがちな航空機ですが、まったく性質の違う乗り物で、単に比較すればいいというものではありません。

では、ガラガラの輸送を繰り返しているなら本数を削減すべきでしょうか?あるいは、料金を下げて空席率を下げるべきでしょうか。もしくは、作るべきではなかったでしょうか。そんなことはありません。よく、わかっていない自称「専門家」が「飛行機のように割引運賃を充実させて空席率を下げるべきだ」とほざ――のたまうことがありますが、それは新幹線の目的からして間違いです。

まず、北越急行はくたか時代から利用者の少なくない人数が富山で下車しています。全体の予約率を見ると少ないかもしれませんが、金沢まで行かない人も多いのです。東海道・山陽新幹線であっても、東京から博多まで行く人は多くありません。新幹線は飛行機と違って途中下車があります。秋田新幹線の開業当時、車窓からなまはげを見つけて途中下車し、そのまま温泉に行くことを提案した人もいます。同僚の異性と共に職場の制服姿でしたが、問題にならなかったのでしょうか。

さらに、時期によって移動する人数は上下します。普段は東海道新幹線にも空き席はありますが、行楽シーズンになれば混み合います。飛行機と違って新幹線は走れる線路が決まっていますから、余裕を持って機材を保有することも大切です。

また「飛び乗り需要」も忘れてはいけません。新幹線は仕事で使われることが多いです。仕事となれば、いきなり乗らなければいけない、という事態も多発します。また、個人が新幹線に乗るときも緊急需要が少なくありません。わたしが新幹線に乗った一番多い理由はつい最近になるまで「葬式」でした。葬式の予定が1ヶ月後に決まっている、ということは大抵の場合ありません。すぐに満杯になっては困るのです。予約率を上げて、いつも満席にしていては、こういった需要に答えられないのです。

そして、何よりも大切なことが「安定した輸送」です。仮に、全部の列車が高い乗車率を達成していたとしましょう。例えば悪天候で列車が何本か運休することになったら、目的地に辿りつけない乗客を誰が救い出すのでしょうか。一体誰が「高速で」「大勢を運べる」新幹線の代行輸送をなし得るのでしょうか。新幹線を助けることができるのは、新幹線と同じ力を持つ新幹線だけなのです。余裕を持って輸送していなければ、このような事態に対処できません。そして「悪天候での運休」は地震などで線路が分断されるよりも頻繁に起きることなのです。

飛行機は空荷で飛ぶことを嫌がります。一度飛ぶだけで尋常ではない量の燃油を消費するため、可能な限り満杯にして、できるだけ利益を出さないといけません。飛行機は人間をギリギリまで押し込んで燃料と戦う乗り物です。対して、新幹線は余裕があります。鉄道は摩擦係数の低い線路を走行するため、移動に要するエネルギィが少ないのです。

このように、まったく性質の違う乗り物を「早くて遠くに行く」ということで同一視し、片方の施策がもう片方で通用すると考える事自体が間違いなのです。「飛行機はこうだから、新幹線もこうすべきだ」そんなことをいう人は、結局飛行機も新幹線もわかっていないのです。乗り物には特性があり、あった条件で使うべきです。川を遡行して潜水艦で長野には行こうとする人は間違っています。

新幹線があるからその街は栄える

北越急行ほくほく線は単線のため、普通列車は当時在来線最速の座を誇り時速160kmで走行していた特急列車から逃げ切って駅や信号場に待避していました。その性能を活かして、今は新幹線に直江津への速達性で勝負を仕掛けています。

さて、北陸新幹線それ自体が成功を収めていることはわかったものの、街はどうでしょうか。長野新幹線は、東京を長野にしてしまいストロー効果で疲弊したとされています。北陸の街は発展したのでしょうか。

北陸新幹線の恩恵を最もうけたのが金沢です。金沢最大の名所である兼六園の入場者が増えたことは当然といっても良いでしょう。兼六園にだけ行ってとんぼ返りする観光客、というものは考えられず、当然その周辺産業も潤うわけですから、「地域の振興に資する」目的を達成したと言えるでしょう。また、石川県に本社を持つハチバンは北陸新幹線の影響で観光客が増え、居酒屋事業の業績が良くなり、リンガーハットとの資本・業務提携を解消することになりました。さらに、高品質のファスナを作ることにおいてたいへん有名な企業YKKは、富山に北陸新幹線の駅ができてから本社機能を富山に移転しました。

新幹線ができたことによってJRから切り離された並行在来線はどうでしょうか。整備新幹線においては、新幹線と同じ経路を通る在来線は経営難が予想されるため、経営をJRから分離することになっています。その経営を任された会社の一つ、あいの風とやま鉄道株式会社は値上げの実行はあったものの、投資のかさんだ初年度からの黒字も予想できるほどの業績をあげています。

また、編成車両数削減に伴う混雑で当初は非難されていましたが、臨時増結によって対応し、二年目を迎えるダイヤ改正でも増車、増発を行い、新駅の開設も検討するなど、より地域に密着した会社として進歩しています。県に出資してもらっている会社が、県民のために業務を改善する、良い傾向と評価できます。

その会社の創設時から「北陸新幹線までのつなぎ」として計画され、その日に備え130億円の内部留保を貯めこんできた北越急行は当然業績が悪化しました。しかし、ドル箱列車の北越急行はくたかを喪失したものの、新幹線より安く、そして早くを掲げて登場した「超快速」は予想を上回る収益を上げています。

もちろん並行在来線運営会社を初めとした第三セクタは苦しい状況に立たされていることは確かですが、どうにもならないというわけではないことがわかると思います。

北海道新幹線はどうなるのか

つい先日まで津軽海峡線の主力列車として旅客輸送を担ってきたスーパー白鳥号です。撮影場所は中小国駅付近、JR東日本とJR北海道の分界点である中小国信号場のすぐ近くにある駅です。

では本日開業した北海道新幹線はどうでしょうか。予約率が低い、4時間の壁が超えられなかった、函館市内から遠い、様々な「失敗の理由」が語られています。

まず、運転本数は北海道新幹線になってから13往復と3往復増えています。在来線特急スーパー白鳥の編成定員である345名が在来線の定員と仮定します。対して北海道新幹線は編成定員731名のE5系を利用しますから、半分以下の乗車率になって当然ということがわかります。

在来線時代の1日平均の青函トンネル利用旅客数は4000人とされていますから、北海道新幹線では21%程度を占めるべきなのに対し、25%の予約率は好調と言えるでしょう。また、繁忙期の津軽海峡線を走る特急列車はたいへん混雑することで有名でしたから、その点から言っても問題ないと言えます。第一、同じ境遇だった北陸新幹線は成功したのですから、心配ないでしょう。

4時間の壁は考慮にも値しません。東京から遠く離れた九州新幹線が成功している実績を考えてください。そもそも、予約率が充分なのに所要時間をもって失敗というのは間違っています。

函館市内から遠い、ということも同様ですが、これは北海道新幹線を更なる成功に導くためにしなければならない決断だったのです。

今後の北海道新幹線

津軽海峡線の三線軌条分岐点です。軌間、つまり車輪と車輪の間が広い標準軌である新幹線と狭い在来線の貨物列車が津軽海峡線を共有するため、三本のレールが敷設されています。ここでそのレールが分岐して、新幹線と在来線はそれぞれの道を歩みます。注目すべきは新幹線用の直線です。可能な限り早く札幌へ向かうための直線です。

本日の北海道新幹線の開業は「一部開業」にすぎません。全線は札幌まで繋がる予定で、こうなると各地の大都市をすべて新幹線でつなぐことが可能になるのです。この時、函館の市街地に新幹線を経由させると線形が著しく悪化する、つまり急カーブが必要になって所要時間が増加します。

そもそも、青森駅と函館駅は津軽海峡を連絡船で渡るため、また車両航走を実施するために、海に可能な限り近づくように設計されています。そのため、その間を線路で直行させることはできず、方向転換をしなくてはなりません。すると大変線形が悪化するため、本州側の新青森駅と北海道側の新函館北斗駅は青森駅や函館駅から遠く離れたところに作る必要があったのです。

北海道新幹線が本来の目的を達成するとき、それは札幌と青森といった今まで鉄道でも飛行機でも行きづらかった場所が行き来しやすくなる時です。また、北海道は多くの人口を持っており、その中心都市である札幌に新幹線がつながればより多くの人々が利用して、そのまわりの街が栄えることは間違いありません。繰り返しますが、それこそが新幹線を全国に整備する目的であり、北海道新幹線が「建設を開始すべき」とされた理由なのですから。

そしてそれは余裕と希望を作り出し、その余裕と希望は新幹線のない場所にも行き届くのです。なぜなら、そういった余裕と希望によって、私達が別れを惜しんだあの寝台特急たちも誕生したのであって、今、廃線になろうとしている北海道の沢山の線路はつくられたのであって、そういった線路を利用する人々を助けるためにも、北海道新幹線に失敗の選択肢はないのです。

津軽海峡寝台特急の原点にして頂点、最後のブルートレイン、寝台特急北斗星号。わたしも大好きで、憧れで、最初に乗った、かけがえのない寝台特急で、愛する列車です。

よく「新幹線のせいでなくなってしまった」と怒りを露わにする人がいますが、それは間違いです。もし、本当に価値のある列車ならなくなるはずがありません。必要とされていないから、そして新幹線はより必要とされているから選ばれたのです。もう一度北斗星号が必要とされるように、つまり、皆に余裕があってのんびりと豪華寝台特急で旅行に行きたい、実際に乗ろうと思えば気軽に乗れる、そんな時代を作り出すためにも、今、新幹線が必要なのです。

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