晴耕雨読 〜自然の循環と共にある生活の器〜

「畑を耕しながら、ゆっくり過ごしたい」と、家づくりを決意したFさんご夫婦。そんな思いにこたえた建築家、岩瀬卓也さんと共に作り上げたのは、大きな土間と開口部で内と外の垣根をなくした「晴耕雨読」の家。自然と一体となって暮らすための知恵が随所に生きるF邸の魅力を、たっぷりとご紹介します。

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畑仕事を効率的にする「通り土間」が家の主役

腰掛けられるくらいの高さにしつらえられた板の間から見た空間。やわらかく湾曲した天井(漆喰)が温かみを感じさせる
南側に位置する庭に面した大きな開口部。開け放てば庭と室内とが一体化した開放的な空間となる

茨城県の静かな田園風景の中に佇むF邸。ここはもともとFさんの奥様のご実家が所有する土地で、週末は都心からこちらに通い、畑仕事にいそしんでいたのだという。「将来的にはこの土地に住み、畑仕事をしながら暮らしたい」と、終の棲家を建てることを決意したFさん。家づくりにあたり設計を依頼したのが、建築家である岩瀬卓也さんだった。

Fさんが思い描く暮らしは、まさに「晴耕雨読」。晴れた日には畑を耕し、雨の日には大好きな読書を楽しむという生活である。「Fさんは希望する生活がとても明確だったので、それに沿って家のイメージを膨らませていきました」と語る岩瀬さん。そこで考えたのが、土地の北側にある畑を生かすこと。そして、内と外を隔絶しない空間をつくることだった。畑の日照を確保するため、建物は平屋建てに決定。また、南北に下がる切妻屋根を採用し、庭側に天水桶、畑側に雨水タンクを配することで、雨水をうまく利用できるよう工夫した。さらに、畑がある北と庭に面する南には全開放できる開口部を設置。晴れた日に大きく開け放てば、外と中とで一体感を感じられる…。そんな「晴耕雨読」の暮らしにふさわしい空間は、こうして完成した。

建物の内部を見ると、南北の開口部を美しい通り土間が結んでいる。外の空間からそのまま地続きになっているように感じる土間は、畑仕事で汚れたまま家に帰っても気にならない、外の延長のような存在だ。また、土間は蓄熱効果が高く、冬は薪ストーブの熱を蓄えて床暖房代わりになるのだという。さらにストーブで温めた湯を撒けば、加湿機能も果たす。この土間は、自然の調温・調湿機能を備えた優れものなのだ。
そして、この通り土間を中心に配されたのが、板間の居間と台所、寝室、桧風呂を備えたバスルームである。板間は腰掛けられるほどの高さの、小上がり的な空間。ここで寝転ぶもよし、読書をするもよし。それぞれの空間に特に目的を定めていないのも、F邸の面白いところといえるだろう。そしてこの板間からはしごを上ると、その上はロフトスペース。こちらは娘さんの秘密基地として活躍しているのだという。

通り土間の向こうに設置されたキッチンは、大工さんが杉で組みステンレス加工したオリジナル
南側から見た外観。和室からは、四季折々で変化する庭の美しい自然を眺めることができる

棟木として家を支えるのは、自らが伐採した桧丸太

ロフトから見下ろす食堂と居間。土間の床は、深岩石と真砂土三和土仕上げ。板間の床は杉縁甲板の4㎝と厚くしっかりしたもので、踏み心地がよく調湿性・保温性も高い
外観には杉板を使用、塗料はウッドロングエコを用いている。時間の経過を楽しみ、10年、20年たったときの風合いも考慮している

外の空間と一体化し、自然に溶け込むF邸。それだけに、使う素材も自然にこだわっている。使われた木材は仕上げ材、造作材もすべて天然乾燥した無垢材。さらに土間は、地元笠間の真砂土を使った作庭家による三和土仕上げである。家の天井を見上げると、そこにあるのは太い桧丸太(太鼓落シ)の棟木。これは施主であるFさんご家族が自ら産地に赴き、きこりの手ほどきを受けて伐採したものだ。岩瀬さんは、お施主様の意向を聞き、希望があれば伐採を体験してもらっているのだそう。「天井(棟木)を見上げたとき、産地に赴いたときの山林の風景が鮮やかに蘇るという感想を聞きました。こうした記憶と今後の生活や出来事が重なり合うことで、この家が家族にとってより親密な居場所となることを願っています」と岩瀬さんはほほ笑む。

そしてこの家にはもう一つ、Fさんの記憶が同居しているのだと言う。「Fさんが幼い頃、敷地周辺の広々とした野原全体が遊び場であったと聞きました。この地域の土でたたいた土間を踏んだとき、子どもの頃の思い出がよみがえることもイメージし三和土仕上げを採用しています」。家に住まうなかで、思い出す記憶。そんなところにまで想いを馳せて家を設計するのも、岩瀬さんならではといえるだろう。

こうして完成した「晴耕雨読の家」。実際に暮らし始めたFさんはこう話す。「子育て中でなかなかゆっくりするのは難しいのですが、この家にいると、時間が少しゆったり流れていくような気がします」。光の入り方、庭の木々の表情などから、季節や時間の移ろいを感じられるせいか、時計を見る回数も減ったそう。大好きな畑仕事を存分に楽しみ、食卓には畑で育てた食材が並ぶ。そして夜は、桧風呂に張った湯で体を休め、土間で揺らめく薪ストーブの火を囲む…。そんな夫婦が思い描いた通りの暮らしが、ここに穏やかに息づいている。

南側から見た夜の外観。中央に鎮座する薪ストーブが空間全体を温める

岩瀬 卓也

岩瀬卓也建築設計事務所

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