“当たって砕けろ”と人気建築家にチャレンジした結果、理想以上の家が予算内で。
夫婦ともにマンション育ちで、一戸建てライフに憧れがあったNさん夫妻。当初は主に建売住宅を検討していましたが、雑誌で見た建築家・松本直子さんの建てた家に釘付けに。予算的にためらいがあったものの、思い切って松本直子建築設計事務所の扉をたたきました。
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ダメもとで訪ねた建築家に即決。
家を建てることはもちろん、購入するのも初めてという30代初めの夫婦にとって、“建築家に家を建ててもらう”という選択は、よほど住まいや建築に造詣が深い人でない限りハードルが高いもの。ましてや、夫妻はともにマンション育ち。
「一戸建てに憧れがあったのと、結婚を機に自然環境のよいところで暮らしたいという希望もあったので、家を持つなら一戸建てだと思っていました。でも、一戸建ての住まいの知識はないですし、自分で建てるというのはちょっと遠い出来事というか。それもあって、当初は建て売り住宅を見ていたんです。今は建て売りでもけっこうおしゃれなものもありましたし、それでいいかなと思っていました」とNさん。
その住まい探しの過程で手にとった2冊の住宅雑誌を眺めていたところ、2軒とても気に入った住まいがあった。
「その2軒は夫婦ふたりがどちらも“この家、いいね”と気に入った家だったんです。よくよく読んでみたら、その家は同じ建築家が建てた家で。それが松本直子さんでした」
建築家どころかハウスメーカーや工務店で建てることも検討していなかった夫妻だが、「建て売りを買ったあとに“建築家に建ててもらうっていう選択肢もあったよね”と、後悔するのはイヤだな、と。大きな買い物ですから納得して終わりたいという気持ちがあって。だったら、“当たって砕けろ”じゃないですけど、断ってもらって構わないのでとりあえず話を聞いてもらおうという結論になりました」と、松本さんの事務所にコンタクトをとった。
建築家というと、独自の美意識を持ち近寄りがたいイメージもあったというが、実際にやりとりしてみると拍子抜けするほどソフトで丁寧な対応だった。
「とても細かく要望を聞いてくれて、こちらが緊張するようなこともないですし、営業色もまったくない。建て売りを見に行ったときのほうが緊張感あったくらいです(笑)。予算に限りがあったのが心配だったのですが、“大丈夫ですよ、なんとかなりますよ”と快く受けてくれて。逆にこちらが“本当にいいんですか?”と言ってしまったくらいでした」
松本さんに相談するのと同時に土地探しも進め、最終的には松本さんの助言をもらいながら現在の土地に決定。そこから本格的に住まいづくりをスタートした。
新しい暮らしにワクワク夢が膨らむプラン。
晴れて建築家と家を建てることが決まったNさん。長期間かけて家探しをしていたこと、また、奥さまは画家、ご主人もプロダクトのデザインをするなど、美的感覚が研ぎ澄まされていたこともあり、イメージや要望は明確だった。
「もともとデザイン的には打ちっぱなしとかイームズの椅子が似合う家が好きだったんですが、長く探しているうちに自分たちの暮らしとか、必要なものが明確になってきて。かっこいいけど無理しながら暮らす家じゃなくて、家事動線や採光など使い心地や居心地がよい、実際の日々の暮らしを優先した家が自分たちらしいと思うようになりました。かといって生活感丸出しの家がいいわけではなく、デザイン的にも居心地の良さも大切。そもそも、雑誌でみた松本さんの家が気に入ったのも、機能だけでもデザインだけでもない、その絶妙なバランス感がいいと思っていたので、その松本さんらしさをいかした家をお願いしました」
松本さんから提案された家は、1階は中庭やテラスを取り囲むように玄関土間や廊下、部屋やアトリエが配された思いもよらなかったプラン。2階はリビングダイニングとキッチン、バスルームやパウダールームなどの水まわりのみと、潔くレイアウトされていた。
「家のカタチが想像もしなかったテトリスみたいなカタチで、そこにテラスや中庭があって、“なんだか面白そう!”とひと目で気に入って。私たちの想像をはるかに超えた提案で、間取りを見ているだけで楽しくて。“テラスで何しよう”と、ワクワクしてしまいました」
夢が膨らむプラン提案だけでなく、快適で暮らしやすそうな住まいが予算内できっちりおさまっていたこともNさん夫妻にとっては驚きだった。
「よく雑誌やTV番組の家づくりを見ると“500万円予算をオーバーしてしまいました”みたいなことってよくありますよね。うちは予算内で建てたかったので、そういうことがあったら困るなと(笑)。でも、なるべく無垢材を使いたいとか、質の面でもこだわりがあったんです。そこの提案の塩梅が松本さんは絶妙なんですよ。コストダウンの方法も教えてくれるし、こだわっている部分には“手が届く範囲のいいもの”を提案してくれる。工務店さんにも掛け合ってくれて、予算をかけるところとマイナスするところをバランスよく組み立ててくれて、本当に助かりました」
デザイン、使い心地、居心地、予算すべてに妥協することなく完成した新居は、生活も心もあり方も変えてくれるものになった。
「場所ごとに風景が変わって、家の中にずっといても変化があって楽しいです。今は階段の上り下りさえ心地良いくらいで(笑)。面積的には決して広い家ではないのですが、部屋によって風景が違うからか、家が広く感じます。本当に居心地がよくて、ストレスがまったくなくなりました。家の中にいても自然や四季が感じられて、こんな快適な生活があったんだ、と思うくらい。人間本来の暮らしに戻ったような感じで、規則正しい生活をするようになりました。当初は建築家と家を建てることは想像もしなかったことですが、本当に勇気をもって相談してよかったです。“チャレンジしてみるもんだね”と、夫婦で今でもよく話しています」
【建築家 松本直子さんコメント】
奥さまは絵を描かれていますし、ご主人もプロダクトデザインに関わっていて、美的感覚に優れたご夫妻。住まいや暮らしに対する意識の高いご夫妻だったので、ただ機能がおさまっただけではなく、シンプルだけれども何かワクワクする仕掛けがあるような家になったらいいな、と思いながら設計しました。たとえば、玄関から廊下を通して中庭やテラスが見えたり、1階のアトリエから中庭や前庭を眺められたり。場所ごとに何か記憶に残る風景がある家になるといいな、と思いました。テラスはもともと要望にあったわけではなく、プラン上でうまれたもの。でも、風景としていい役割をしますし、BBQをしたり子どもを遊ばせたり、想像が膨らんで楽しいと思いました。Nさまもそこの部分に共感してくれたのでスムーズに実現させることができました。コストの制約はありましたが、それは工夫次第でいかようにもなることなので建築家に任せていただければと思います。
撮影:アトリエあふろ(糠澤武敏)
松本 直子
松本直子建築設計事務所
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