都市の“スキマ”を活かす! 南国の光と風を取り込む家
沖縄・那覇市内に立つこの家は、6人家族のために建築家の小林進一さんが建てたもの。設計にあたり、南北にのびた縦長の敷地と住宅が密集する周囲の環境を見て、小林さんは真っ先にあることを思いついたという。開放感あふれる南国の自然を間近に感じる暮らしをかなえた、その「あること」とは?
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採光、通風、視線の抜け。すべてがかなう家づくり
沖縄といえば、まばゆい太陽と透き通る海。心を解き放つ美しい自然を満喫でき、時間がゆっくり流れる楽園リゾートのイメージが強い。だが、那覇などの都市部は人口増加傾向にあり、住宅環境を見ても隣家と密接した宅地が少なくない。東京と沖縄で活躍する小林さんが手がけたこの家も道路に面した北側以外は建物があり、住宅密集地といえる場所だった。
敷地は約60坪。間口は約8~9m、奥行は約20mと、南北にのびた長方形だ。そんなこの地を初めて訪れたとき、小林さんは真っ先に、ある“スキマ”を見つけたという。
「ここは道路から敷地を見ると、左にマンション、右に2階建て、奥にも2階建てが2軒立つ環境です。でも、その奥の2軒の間に少しスキマが空いていて、そこには大きなヤシの木があった。このスキマが、いいなあと思ったんです」
ご夫妻と4人の息子さんという施主さま一家が希望したのは、光がたっぷり入る明るい家。そして、家族や来客の車を置くための駐車場の台数確保。この要望に対する小林さんのプランは、「いいなあ」と思ったスキマを起点に形づくられていった。
まず、建物は3階建てにして、1階は駐車場と玄関に。2階はLDK、テラス、主寝室。3階は息子さんたちの個室である。邸内には道路側から奥のヤシの木にかけて突き抜けるスキマ空間をつくり、生活の中心となる2階は、このスキマ空間を軸にリビングやキッチンを配置。窓はマンション側を避けて2階建ての建物側に集中させ、かつ、テラスで隣の建物と距離を取った部分に大きく取り、外部からの視線を除けつつふんだんに採光できるように計画した。
大きな窓から気持ちのよい光と風が入る邸内は、とにかく明るく、開放的で心地いい。2つのテラスに囲まれるようにつくられたリビングは吹抜けで、3階部分も大きく開口。横を向いても上を向いても視線がのびやかに広がり、屋外の光や緑、空を感じることができる。
小林さんが最初に惹かれた奥の隣家との間にあるヤシの木は、家の中はもちろん道路から見ても窓を通して視界に入る。この家は中にいても外から眺めても、大きなヤシの木とともにある。豊かな感性と確かな技術から成る設計力は、たまたまあった敷地外のヤシの木さえも住まいに組み込み、南国のおおらかな自然を暮らしの中に馴染ませてしまうのだ。
日々の暮らしと人が集まる時間を包む、洗練と温かさ
この家の大きな魅力のひとつは、何といっても、その“カッコよさ”だろう。宙に浮くコンクリートの箱を、白い壁でくるんだ個性的なデザイン。研ぎ澄まされた現代アートを展示する美術館を思わせる外観ながら、暮らしを守る住まいとしての温かさも漂わせる。
デザイン性の高さを支えているのは、設計や素材の一つひとつに対する小林さんのこだわりだ。例えば、この家のようにRCラーメン構造の建物は構造の柱や梁が表に出るが、小林さんは逆梁という梁を逆さにつける方法を1階と2階の間に取り入れた。そのおかげで通常なら表にボコボコ出るはずの梁が内側に隠れ、美しい平面から成る箱のような外観が実現している。
また、白い壁に覆われたコンクリート部分を固める型枠には、一般的に使われる合板ではなくスギ板を使用。合板の型枠を使ったときと異なり、天然のスギの木目が写ったコンクリートは無機質なもののはずなのに有機的で表情豊か。つるんとなめらかな白い壁にくるまれると、その趣はさらに引き立つ。
邸内においても、上質で温かみあるデザインは健在だ。キッチンはカウンターの腰壁に床材と同じものが張られ、リビングのインテリアの一部のよう。リビング内の畳の小上がりにある、小林さんオリジナルの障子も面白い。「目で遊んでいるんですよ」と、障子枠は不規則な縦組み。障子紙は、両面に紙を張る太鼓張り。すっきりしているのに障子紙から透けて見えるランダムな縦組みの目が洒落ていて、さりげないアクセントになっている。
至るところにこだわりが息づく空間は単にカッコいいだけでなく、家族が暮らし、人が集まり、同じ時間を過ごすさまざまなシーンを彩る魅力も併せもつ。LDKと吹抜けでつながり、お互いの存在を感じられる個室。明かりがついていれば光が漏れて気配がわかる、壁と天井の間のガラスの欄間。「沖縄では親戚や友人の方とお互いの家を行き来する、ご家族のイベントが多いんです」と、みんなが思い思いに好きな場所に座って話せるようにつくった、止まり木のようなリビング内階段やベンチにもなるテレビ台、畳の小上がり。
家族の住まいとしての楽しさや快適さ。住む人はもちろん、道行く人の心も豊かにする建築物としての美しさ。これらを両立する洗練と温かさのバランスが絶妙な空間は、日々の暮らしはもちろんのこと、親しい人たちとの時間を大切にする沖縄らしいライフスタイルも包み込む。
小林進一さんのコメント
密集地といえる環境ですが、どこかに都市のスキマを見出して、そのスキマを活かした快適な住空間を目指しました。施主さまにも満足いただくことができ、ご要望の採光、通風ともに良好との感想をいただいています。外観はすっきりと美しい箱をイメージし、もともとあったヤシの木の南国らしい風景も取り込むようにデザインしています。施主さまご一家はもちろん、街の方にも楽しんでいただける建物になったらうれしいですね。
小林 進一
一級建築士事務所 コバヤシ401.Design room
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