『生活予想図』から生まれた!?自然素材の“行き止まりのない家

「内装から断熱材まで自然素材にこだわりたい」。小学生の息子さんを持つKさん夫妻の要望に応えて建築家の福田義房さんがつくったのは、地元・埼玉の木材など国産素材をふんだんに使った住まい。シンプルで、おおらか。住む人(や、猫)と共に変化する、家族のようなお家。

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ヒノキ、漆喰……。昔からある、日本人が慣れ親しんだ素材のよさ

 「自然素材の家に住みたい」。近年、そう希望する30代、40代の夫婦が増えていると埼玉県川越市を中心にご活躍されている、設計事務所アーキクラフトの建築家、福田義房さんは言う。まだ小さな子どものためにできるだけ化学物質を避け、健康面で安心感を持てる環境で育てたいというのが多くの人の理由だ。自然素材ならではの、ぬくもりある表情や質感を望んでもいるのだろう。

 自宅の建て替えを計画していたKさん夫妻もそうだった。育ちざかりの小学生の息子さんと、愛猫と共に暮らす夫妻の要望は、内装から断熱材まですべてが自然素材の家。自らも工法や素材について調べており、自然素材の家を多数手がける福田さんに設計を依頼した。

 完成したK邸はすがすがしい色合いの無垢材がふんだんに用いられ、穏やかな木の香りと素朴な表情に心が和む。床はすべてヒノキ(トイレまで!)、建具や造り付けの家具はスギ(キッチンのスライド式家具まで!)。使われている木材は、豊かな森林を有する地元埼玉・ときがわ町のもの。福田さんは製材業者と直取引するルートを持ち、相場より安価に仕入れる環境も整えている。

 壁はカビに強い漆喰、断熱材は間伐材を繊維状にした木でつくられる北海道産のウッドファイバー。「布団は湿気がたまりやすいので」と、押入れも漆喰とスギの簀子(すのこ)で仕上げた。「押入れはいつもこの組み合わせ。調湿という点では珪藻土もすぐれていますが、柔らかいんです。布団を出し入れする押入れには、適度に硬度がある漆喰がいい」と福田さん。

 人目につかない壁の内部や収納まで、建築に詳しくなくても聞き覚えのある自然素材。
「僕は、新建材といわれるものには慎重なんです」。昔から使われてきた素材は経年変化や扱い方が周知されており、永く住む上で安心できると福田さんは語る。

 一方で、自然素材はメンテナンスを必要とするがゆえに敬遠される側面もある。「でも、毎日メンテナンスするわけではないですし、オイルを塗ったりブラシでこするなど、専門業者の手を借りなくても住む人自身が少しの準備でできる作業がほとんどです。それに、正しく手を加えた自然素材の家は、古くなっても陳腐化することがありません」

 福田さんは、Kさん一家のように小さな子どものいる家族の住まいを手がけることが多い。「子育て世代の家づくりは好きです。お子さんの成長過程をお付き合いさせてもらえるのも楽しみです」。だからこそ、この先数十年の安心や快適を得られ、世代を越えて住み継がれる家にふさわしい“末永く使える素材”を見極める。

 言うまでもなく、自然素材にはいいところがたくさんある。見た目や性能が日本の気候風土と好相性。素足で踏みしめ、手で触れたときの質感が無意識のうちに体と馴染む。シックハウスなどのリスクを減らせる……etc.

 だが、自然素材の家の本当の魅力は、手をかけることで年月を重ねるほどに頼もしく、味わいを増し、住む人と共に“育つ”ところにあるのかもしれない。福田さんがつくった家が、Kさん一家にとって真にかけがえのないものになるのはこれからだ。

“生活予想図”でふくらむ夢。将来の変化を見越した曖昧な間取り

 福田さんの提案がほとんどそのまま形となった間取りのコンセプトは、“行き止まりのない家”。LDKのある1階も、主寝室や子ども部屋のある2階もぐるぐるまわれる回遊性があり、それぞれの空間がゆるやかにつながる。

 “行き止まりのない家”の魅力は、効率的な動線や、計画的に配された窓との相乗効果による通風・採光のよさ。そして何より、空間の一体感を得られることだ。福田さんはそのことを“ひとつ屋根の下感”と表現する。どこにいても家族の気配を感じられ、暮らしの中で自然に顔を見て言葉を交わす。文字通り、そんな“ひとつ屋根の下に暮らす”感覚を大切にしたいという。

 もうひとつ意識しているのが、家族構成やライフスタイルの変化に対応できる“可変性と曖昧さ”。たとえば、子ども部屋は必要に応じて間仕切りを設けられる造りに。また、ダイニングの脇には多目的のカウンターを設置。Kさんが書斎的に使ってもいいし、奥さまがここで家計簿をつけたり、場合によっては飾り棚にしてもいい。役割が曖昧なぶん、どんな暮らし方をしても活躍しそうなスペースだ。

 福田さんはプラン作成の際、こうした新居での生活イメージを絵にしてKさんに渡した。繊細なタッチの平面図や断面図には、風や光の出入りに加え、新居で暮らすKさん一家の姿も描かれている。冷蔵庫の扉を開けているKさんの横には『冷蔵庫の位置は大事。だれでも使いやすく』とのコメントも。絵本のように楽しく、家づくりの夢がいっそうにふくらむ“完成予想図”ならぬ“生活予想図”である。

 “生活予想図”をここまで緻密に描けるのは、それだけ福田さんが住む人にとっての暮らしやすさを熟考しているということにほかならない。その思いはK家の猫にも向けられ、ロフトへの階段を猫が遊びやすい形にしたり、リビングにあえて段差のある飾り棚を設けたりといった仕掛けを施した。

 梁をむき出しにしているのは、家を構造するものが見えると安心感があるからなのだという。「それに、子どもが住まいに興味を持ち、親子でいろいろ話せるかもしれない。大工さんも表に出るとなると、より丁寧にやってくれますよ(笑)」

 取材後、福田さんの事務所のホームページに掲載されたK邸の竣工写真をあらためて閲覧した。梁が大きく写った写真には、『家の中の移動はかなり自由です!』とのコメントが書かれている。

 これは明らかに人間向けのコメントではないだろう(人間が梁を渡って移動するケースはまずない、という前提)。“頼りがいのある住まい”を視覚的に実感でき、子どもが“住”を知るきっかけにもなる梁には、猫が家全体を使って遊びまわれるようにとの思いもこめられていたのである。

 大人も子どもも、そして猫も。雨風をしのぐだけじゃない、思いのままに、自由に、暮らすことを楽しめる家。福田さんがつくる住まいには、そんな“生活の器”としてのおおらかな懐の深さがある。

福田 義房

アーキクラフト一級建築士事務所

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