「土間」がつなぐ二世帯住宅!矛盾しそうな親子の本音にも解とは

二世帯の同居をスタートさせるにあたり、実家をリフォームしようと考えていたAさん一家とAさんのご両親。親世帯と子世帯、両者の思いに耳を傾けた建築家が出した答えは、まったく個性の異なる2軒の家が並列する、すっきりスマートな家の「新築」だった。

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各世帯の独立性と安心感の両立が生む、絶妙な距離感

広大な敷地に建つ、横長の四角い家。モノトーンのスタイリッシュな外観は長閑な住宅街でひときわ目を引き、それでいて、周囲の緑となじむ落ち着いた温かみも感じさせる。

 現在Aさん一家が暮らす二世帯住宅は、ご主人の実家の敷地に建てられている。以前ここには、ご主人のご両親が終の棲家のつもりで建てた家があった。築年数は18年ほどで、老朽化という課題に直面していたわけではない。Aさん一家が「親と同居する」と決めたとき、まず、「リフォームして二世帯仕様に…」と考えたのも自然な流れだっただろう。

 しかし、いざ打ち合わせを重ねてみると、親世帯の「掃除が大変だからもっとコンパクトな家にしたい」、子世帯の「玄関は分けたい」「表と裏みたいな造りは嫌」など、要望が出てくる出てくる…。

 ここで、建築家の角倉剛さんは「リフォームではなく、新しい家に建て直す」ことを提案した。既存の家を活かして要望を叶えようとすると制約が多く、また、既存家屋の多くを取り壊すリフォームになるため、費用的にも新築とさほど変わらないというのがその理由だった。

 この提案にAさん一家も同意し、あらためて二世帯住宅の建築に臨むことに。空間、生活ともに、自分たち「らしさ」を大切にしたい子世帯は独立性も望んだため、当初は広い敷地内に二棟の家を建てる案もつくった。

 しかし、お互いに気を遣うだろうからと、親世帯、子世帯と分けて打ち合わせを行っていた角倉さんは、「そうは言っても多少のつながりが欲しい」という親世帯の本音にも触れる。そして、独立性を保ちつつ、同じ屋根の下で暮らす安心感を得られる家の答えとして、現在の「2軒の家を土間でつなぐ」スタイルに行き着いた。

 Aさん邸は約180坪の広い敷地を有する。「これだけの広さがあれば空間をタテに広げるのではなく、2軒の家を横並びにでき、より独立性を高められます。そこで、2軒の家をつなぎ、かつ、家の南北に広がる2つの庭をつなぐスペースとして土間を提案しました。この土間は親世帯の玄関、子世帯の裏玄関という造りになっています」と、角倉さん。

 完成したAさん邸は、ひとつ屋根でも「土間」という外部空間に近いスペースを介在させていることで、親世帯、子世帯ともに「一軒の家」としての確かな存在感がある。「平屋で、段差がない家」という親の希望と、「採光が良くて明るく、吹抜けのある家」という子の希望。各世帯の希望を両立した住まいにAさんも大満足の様子で、「居住空間は自分たちの望み通りにつくることができました」

 Aさんのお子さんは、4才と2才の元気いっぱいの男の子。Aさんの奥さまがおやつをつくると、2人で親世帯に持っていくなど行き来も多い。「でも毎日は来ませんよ」と笑うのはAさんのお父さま。「普段はそれぞれに気兼ねなく生活していますが、こちらで何かあったときには息子たちが気づいてくれるだろうという安心感がありますね。大家族と核家族のいいとこどりという感じです」と、穏やかな笑顔で語ってくれた。

【子世帯】吹抜けとスキップフロアでひとつにつながる家

「光がたくさん入る、明るい家」という子世帯の希望を受け、まず角倉さんが決めたのは吹抜けの採用だ。早速、吹抜けのあるプランをいくつか提案した角倉さん。居住空間が中庭を囲むプランもつくったが、Aさんはどうも納得がいかない様子。そのときAさんの口から出たのが「どこにいても家族の気配を感じられる一体感が欲しい」という言葉だった。

 角倉さんはこの要望に対し、1階と2階が分断されることがないように、少しずつ床レベルが変わるスキップフロアで応えた。1階のリビング・ダイニングから中2階のプレイルーム、2階の子ども部屋や書斎、寝室へと続く3つのフロアは、リビング内の階段を通じてひとつながりの空間になっている。また、リビングの床はダイニングより35cm高くしてあり、リビングから2階の距離が近く感じられる細やかな工夫も。緩やかに床の高さが変わる空間はまさに「一体感」があり、奥さまが1階のダイニングで食事の支度をととのえたら、中2階で遊ぶお子さんにも、2階の書斎にいるAさんにも気軽に声をかけられる。

 家族が集まるリビングは、高い天井と真っ白な漆喰の壁が爽やかな印象。上に広がるのびやかな開放感が気持ちいい。南には、青空を望む2階部分まで開口した大きな窓。北には、花や野菜がすくすく育つ広大な庭を見渡せる窓。双方の窓からは、まばゆい陽光が燦々とそそぎこむ。「自然を眺められるし、風の通りもいい。夏でも冷房を使わずにすむ日が多いです。四季を問わず快適で、住み心地は最高ですね」

建てた人:角倉 剛さんコメント
 
 「明るい家」をご希望だった子世帯には、高い位置からたっぷり採光でき、広範囲で明るさを得やすい吹抜けのあるプランをご提案しました。次に「一体感」というキーワードが出てきたため、最終的には吹抜けを活かし、上下のフロアが緩やかにつながるスキップフロアの家になりました。一方、奥さまからは「収納」というご要望も。空間をすっきりさせつつ、キッチンや洗面室など家事の中心舞台はもちろん、玄関や勝手口付近にも造り付け収納を多く配しています。

住んでいる人:ご夫婦コメント

 吹抜けがいいなと思っていましたが、最初は言わなかったんです。でも角倉さんは言わずとも吹抜けを提案してくれましたので、以心伝心という感じです。階段はリビング内にして、帰宅した子どもが必ず家族の顔を見て上階へ行く間取りにしていただきました。と言っても、子どもはまだ小さいので1階で遊ぶことが多いですけど(笑)。角倉さんは内装のテイストに合わせて造り付けのテレビ台なども設計してくださったので、インテリアも統一感があって気に入っています。

【親世帯】自然を見て、感じるバリアフリーの平屋

「木」と「緑」。親世帯に足を踏み入れた瞬間に受ける印象を言い表すと、この2つになるかもしれない。木材のナチュラルで上品な色合いに心落ち着く空間は、右を向いても左を向いても窓越しの豊かな緑が目に飛び込む。Aさんのお父さまの、「自然が好きなので、家の中でも庭の景色を存分に楽しみたかったんです」という希望が見事に叶えられている。

 自然へのこだわりは、眺めだけでなく素材にも息づく。床と天井は硬度がありキズがつきにくいナラ材を使用。壁はAさんのお母さまの「吸湿・吸臭効果のある漆喰がいい。質感も欲しい」との希望を受け、漆喰に少し砂を混ぜてぬくもりのあるニュアンスを出した。

 こうした自然素材に加え、風の通りを計算した開口位置、地熱も利用した空気の循環システム、厚めの断熱材、複層ガラスなどの相乗効果で「湿気はなく、結露が出ないし、カビも生えない。冬も夏も非常に過ごしやすいですね」とお父さま。

 足腰が弱くなった場合のことも考えた親世帯は、バリアフリーの平屋。段差がなく、各空間がひと続きの住まいは清々しいほどにすっきりとしており、まるで山あいの旅館を訪れたような心地よい非日常感さえ漂う。

 「見える景色や素材など細かな要望に対し、角倉さんは一つひとつ丁寧に応えてくださいました。どのスペースも期待以上の仕上がりで、不満はひとつもありません」。Aさんのご両親は若い頃に初めて家を建て、この土地に移り住んだ際に2度目の新築を経験している。人生3回目となる今回の家づくりは、今の自分たちのライフスタイルを投影し、掛け値なしに満足のいくものになったようだ。

【角倉 剛さんコメント】

「日本の田園風景が好き」とのお話を伺い、まずは敷地内の庭をじっくりと拝見して、自然あふれる眺めを日常的に楽しめるように設計。もうひとつのご要望は、断熱、湿気対策に効果的な設備やスペックでした。断熱材はハイグレードで厚めのものを選び、隙間なく充填。屋根は空気層の下に断熱材と遮熱シートを設置し、直射日光で熱くならないようにするなどの工夫を施しています。また、間取りは大きなワンルームを意識しつつ「個」の空間も確保して、家の中を回遊できる動線の良さにも配慮。子世帯がスキップフロアを介した動きのある空間であるのに対し、親世帯は落ち着いた静かな空間をつくることを考えました。

【ご夫婦コメント】

以前の家で取り入れてみてよかった空気の循環システムなど、角倉さんのご提案になかったお願いもしましたが、快く対応していただきました。完成してみると、適度な広さの中に必要なものがバランスよく配されている。照明や造り付けの家具を配置するセンスも素晴らしい。以前建てた家にも愛着はありましたが、住み心地はそれを上回っていて、すべてに満足できる極めて快適な住まいです。角倉さんには妻の知人の紹介でお願いしたのですが、出会いに非常に感謝していますね。

撮影:アトリエあふろ(鈴木暁彦)

角倉 剛

角倉剛建築設計事務所

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