【特集・沢村一樹さん】建築家・谷尻誠さんと語る、住まいと暮らしと仕事のこと(前編)

今回は以前、ある番組で一緒に仕事をしたことがある、建築家・谷尻誠さんと沢村さんの対談をお届け。前編では、お二人の出会いのきっかけをはじめ、お互いの仕事観や住まいにまつわる素朴な疑問について、沢村さんが鋭く切り込みます!

建築家・谷尻誠との出会いと、わが家のこだわり

沢村一樹さん(以下、沢村さん):お久しぶりです。実は、「初めまして」ではないんですよね。ある番組で3人の建築家に僕の家を建ててもらう企画をやらせていただいたんですが、その建築家のお一人が谷尻さんでした。あのときは、何か少年のような人だなぁ~と思っていましたが、今日はちゃんとして見えます(笑)。

谷尻誠さん(以下、谷尻さん):だいぶ、まともになりましたかね? 年齢とともに(笑)。

沢村さん:まともになったかどうかはわかりませんが(笑)。あのときは、いい加減な人だなぁ……と。

谷尻さん:いい加減ではなく、“良い”加減ってことで(笑)。

沢村さん:うまい! 座布団一枚!

(一同爆笑)

沢村さん:その番組では、予算と土地の広さが決まっていて、家を設計してもらうという内容でした。

谷尻さん:場所も決まっていたので、現地調査にも行きましたね。

沢村さん:あの家、本当いい家だったなぁ……。

谷尻さん:今は、どのように暮らしているのですか?

沢村さん:今はマンションですね。

谷尻さん:何だかんだ、マンションが楽ですよね。僕は広島と東京に家があって、広島は買っていて、東京は借りています。

沢村さん:雑誌で(ご自宅を)拝見しましたが、東京の方は内装をかなりいじっていましたよね?

谷尻さん:実は、東京の物件は内装を自由にしていい賃貸にしたんですよ。普通だと、古い建物は魅力がないからみんな借りたがらないので、ずっと空き部屋になっているんですが、逆にそういった物件を探して、内装をいじりました。これは、不動産屋さんに大家さんと交渉してもらいましたね。僕たちが改修すれば、僕たちのあとにも間違いなく借りたい人が来るので。

沢村さん:ちなみに、東京の家は改修するにあたって、どれぐらいのコストがかかりましたか?

谷尻さん:600万円くらいかな。

沢村さん:それくらいお金をかけても、気に入った場所にいたいですよね。

谷尻さん:やっぱりそうですね。変な所にいると、毎日がつまらなくなってしまいます。

沢村さん:洗面所やお風呂といった水回りはきれいにしたいんですよ。

谷尻さん:僕もそれは一緒ですね。他はラフでもいいですけど、水回りはきれいであってほしいですね。

“建築家”という職業のイメージ。そして、その仕事について

沢村さん:建築の仕事はゼロからしなくちゃいけないので、大変ですよね。僕ら役者は監督がいて台本があって、その通りに演じればできるわけで……。

谷尻さん:そうですね。いわば、“台本を作る側”の仕事ですからね。

沢村さん:実際、どういった仕事内容なんですか? そして、何でそんなに売れっ子なんですか(笑)? 谷尻さんって、他の建築家とどこが違うんでしょう?

谷尻さん:普通、建築家って“いざというとき”にお願いしますよね。一生に一度とか。そして、頼む側も慎重になりますけど、いざ頼むってなっても、誰に頼んだらいいかわからないし、ちょっと敷居も高そうじゃないですか。

沢村さん:確かに。

谷尻さん:何か、先生って感じもしますよね? 先生にお願いする、という感じじゃないですか。他の建築家の方は、先生は先生でも“ドクター”という感じだけど、僕の場合は“町医者”に近い感じ。さっきも言いましたが、建築家は敷居が高くて、堅苦しいイメージが世の中に定着していますよね。だとしたら、もう少し社会性を持つべき職業であって、いざというときではなく、普段からちゃんと関わりが持てるような位置にいたいと思っているんです。だから、僕は町医者のような、普段から気軽に相談できるようなポジションが自分に合っていると思ってますね。

沢村さん:家を建ててもらった人も、谷尻さんがどんどん有名になっていくのはうれしいと思います。こんなにメディアに登場して、有名になるなんて。

谷尻さん:昔頼んだ人からすれば、“先物買い”みたいな感覚かもしれないですね。ちゃんと頼んだ人が活躍するのは、自分でいうのもなんですが、うれしいことだと思いますよ。

沢村さん:ご自身が「他の人と違うな」というところはありますか?

谷尻さん:仕切らないということですかね? このカフェ(※)は、オフィスとカフェに仕切りがないんです。僕は、現代は“同居の時代”だと盛んに言っています。例えば、ピアノを習う。英会話を習う。この2つを実現しようと思うと、2つの時間がいるわけですよね。でも、今は英語でピアノを教えてくれる時代だと思うんです。

沢村さん:例え話が上手ですね~(笑)。

※今回の撮影・対談場所でもある、谷尻さんが代表のSUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltdの新東京事務所と飲食店が一緒のスペースになった「社食堂」。

谷尻さん:昔は家の土間で商いをやっていて、子育てをしながらお店をやっているという風景が日常でしたけど、いつの間にか子育てと商いが独立してしまったんです。でも、一周回って働くことと生活することがすごく近くなっていますよね。

沢村さん:ちなみに、谷尻さんに設計を依頼される方は、どういった人たちが多いんですか?

谷尻さん:僕がつくったものを見て来られる方もいますし、雑誌のインタビューなどを読んで来られる方もいますね。

沢村さん:谷尻さんの考え方に共感した方が来るわけですね。

谷尻さん:そうですね。そういう方が多いですね。

沢村さん:じゃあ、今までの暮らしと全然別の暮らしをイメージできる人じゃないとつらいですよね。

谷尻さん:やっぱり住宅メーカーに頼む人は、今までの暮らしの延長上だと思うんですよ。例えば、3LDKがいいとか。そのセオリーを自分に合わせると、僕らに頼む場合はセオリー自体を一緒につくるやり方なので、ある意味、0(ゼロ)から1なのか、1から10なのかという違いでもあると思います。

沢村さん:今までつくってきた家で、「失敗だったなぁ」という家はありますか?

谷尻さん:大きな失敗はないんですけど、小さな失敗はたくさんありますね。でも、その失敗は正直にお施主さんに言いますよ。今は、今できる最大の仕事をするけれど、それは成長の過程でもあるので、あとからできものがいいに決まっていますよね。

負荷がかかれば、人はそれを乗り越えるために成長する

沢村さん:話が変わりますが、やっぱり照明は大事ですか? 僕は、インテリアは照明が肝だと思っていますけど。

谷尻さん:大事ですね。やっぱり照明は、その場所の雰囲気をつくります。明るいダイニングレストランって、何か雰囲気良くないですよね。人は暗いと声が小さくなりますし、その分、親密な会話ができるんです。明るい場所で親密な会話って、できないですよね。

沢村さん:へぇ~、やっぱりそういったことも考えているんですね。よく人のことを観察しているんだなと思います。

谷尻さん:すごく、“人”好きですね。

沢村さん:そういった思いやりが作品に出ていると思いますね。

谷尻さん:ありがとうございます。いくら他の人の家を設計するといっても、自分が住みたくなるような家じゃないとダメなんですよ。変な話、お施主さんのオーダーをかなえることが仕事ですけど、我慢して自分が住みたくない家を設計するのと、自分が住みたいと思う家を設計するのでは、後者の方が誠実な気がして。だから、自分のわがままさとお施主さんの要望が入り混じっていないと、自分の作品じゃない感じがするんです。

沢村さん:そこが、谷尻さんの個性にもなっているんでしょうね。

谷尻さん:ある種、そうかもしれませんね。言われたことだけをかなえるのであれば、僕に頼まなくてもいいわけじゃないですか。

沢村さん:それは、役者も一緒ですね。監督に言われたことを聞いてセリフを言うだけなら、僕じゃなくてもいい。だから、「俺の言う通りに、この台本通りにやってくれ」という監督とは仕事はしない(笑)。

谷尻さん:機械的なのは難しいですよね。もどかしい中、何とか出来上がることに意味があるわけで。

沢村さん:確かに、“共作”にならないと意味がないですね。

谷尻さん:お施主さんとの会話の何気ない一言がアイデアの種になって、「おかげでこれができました」ってなることも多々ありますよ。

沢村さん:そういうときに完成したものって、何か楽しいですよね。

谷尻さん:全部思い通りになると、つまらないですもんね。

沢村さん:何か、妥協して受け入れている自分が好きなときもあるし。

谷尻さん:結局、人は負荷がないと成長しないんですよね。お施主さんから「全部好きにやっていいよ」って言われたら、逆に困ります。負荷がないと、限界の力が出せない。わがままとか無理難題を言ってくれるから、負荷がかかって、それを超えるアイデアが生まれると思うんですよ。

沢村さん:もし、お施主さんがわがままを言ってくれなかったら、どうするんですか?

谷尻さん:負荷がないときは、絶対にないですね。皆さん、500円を持って800円のチャーシュー麺を食べに来ます。当然ですが、500円では食べられません。

そのとき、「500円で800円のチャーシュー麺を食べさせてくれ」という人と、「500円しかないけど、一緒に新しいチャーシュー麺を作りましょう」という人だと、前者は“ただのわがまま”なので、そういった人の仕事はなかなかできないんですが、後者の場合は、“チャーシュー”を“鶏”に変えれば、もしかするともっとおいしいものができるかもしれませんよね。お施主さんと一緒に可能性を探っていくことが大事なんだと思います。

(後編につづく)

【沢村一樹(さわむらいっき)】
1967年7月10日生まれ、鹿児島県出身。今年4月からスタートした連続テレビ小説『ひよっこ』(NHK総合)では、谷田部実役で出演中。10月スタートの連続ドラマ『ユニバーサル広告社~あなたの人生、売り込みます!~』(テレビ東京系)では、主演の杉山利史役が決定。また、2018年1月からは大河ドラマ『西郷どん』(NHK総合)に赤山靭負役での出演が決定している。

【谷尻誠(たにじりまこと)】
1974年、広島県生まれ。2000年、SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltdを設立。2014年より、吉田愛と共同主宰。JCDデザインアワード、グッドデザイン賞、INAXデザインコンテストなど多数の賞を受賞。現在、広島と東京を拠点とし、世界で活躍中。

●Photographer:Kenji Fujimaki
●Stylist:Miyoko Onizuka(Ange)
●Hair and Make-up:INOMATA(&'s management)
●Director:Shunsuke Nakagawa(CROSSRING)
●Casting:Hiro Suzuki(Hybiscus)
●Writer:Yasuyuki Ushijima(NO TECH)
●Editor:Aya Kanaizumi,Takashi Otsubo(LIMIA)

【衣装「Calvin Klein PLATINUM」】
トップス:¥29,000(Calvin Klein PLATINUM/税抜き)
●Tel:03-5476-5811(株式会社オンワード樫山・お客様相談室)

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