建築家・中村拓志インタビュー4/光学ガラスを使った家・動画も!

活躍を続ける建築家・中村拓志氏のインタビュー企画の第4弾。今回の建築は広島の市街地にある個人住宅「オプティカルグラスハウス」。この建築には「都市部にありながら自然を感じさせる仕掛け」が多く盛り込まれているという。
それぞれの仕掛けや設計の根底にある建築に対する思いについて詳しく話をうかがった。

photo : koji fujii / nacasa & partners

市街地でも自然を感じながら暮らせる空間を作る

この建築のオーナーの希望は、市街地であっても緑豊かに暮らしたい、と言うことでした。場所は広島県広島市。路面電車が走っているような大通り沿いで、交通量が多く、もちろん騒音もある場所です。

そこで、周囲からの視線や騒音をカットしつつも、風や雨や木がもたらす動きを少しでも多く感じられる空間をつくろうと思ったんです。それで、自然現象を増幅させるような仕組みを各所に取り入れることにしました。

Optical Glass House by Nakamura Hiroshi

視線と騒音を遮りながら外を見る楽しみを創出するガラスブロック

(c)Hiroshi Nakamura & NAP

まず、直射日光を拡散させずに光がもたらす自然現象を強調してくれて、視線や騒音をカットする方法として、光学ガラス(非常に透明度が高く、カメラのレンズ等に使用されるガラス)を使用することにしたんです。

音というのは重量によって遮ることができるため、中空の軽いガラスブロックではダメなんですね。国内のメーカーに協力してもらい、製作したガラスブロック約6000個を使って、道路に対して壁をつくりました。これだけの大きさのものだと、ただ積み上げただけでは倒れてしまいます。上から吊ったり、ステンレス性の部材で固定したりと結構大変でしたね。

(c)Hiroshi Nakamura & NAP

こうしてできたガラスブロックの壁は、遮音効果と、光の屈折によって外から家の中の様子を見えないようにする効果を生みだしました。
でも、それだけではなくて、ガラスブロックを通して見る幹線道路の風景が、急に変わって見えるようになる。バスや路面電車が走る様子をずっと見ていても飽きないんですね。そんな景色を作り出す効果もありました。
こうやって、視線と騒音を遮りつつも外とのつながりを遮断しすぎないような壁ができたんです。

日本に昔からある知恵を現代に生かすアイデア

photo : koji fujii / nacasa & partners

この建築の形式は「長屋」であり、「うなぎの寝床」とも言われる前庭と奥庭を持つ細長い間取り。このような形の場合、打ち水をすることで室内に風の流れを作ることができるんです。ここではちょうどエントランスの真上にトップライトを設けているのですが、その上を水盤にすることで2階の空間に打ち水効果をもたらしているんです。

心地よさを確認するためのカーテン

photo : koji fujii / nacasa & partners

そして、この家の仕掛けでもう一つ重要なのが、カーテン。ガラスブロックによってプライバシーは守られているので目隠しの機能はすでにあります。そのうえで「確認用」として用意しました。何の確認かと言うと「風鈴」と同じですね。

本来、風鈴は、打ち水によって起きた風を受けて鳴るもの。つまり、打ち水によって生じた風を「耳」で感じるため、自分の作り出した快適さを「五感」を使って確認するための存在。このカーテンもそれと一緒で、なびく様子を目で見ることによって、風が吹いていることを確認するためにあるのです。

自然現象を階下に伝えるトップライト

photo : koji fujii / nacasa & partners

水盤は、実はエントランス部分のトップライトになっています。庭の水盤で起きている多彩な自然現象を、室内に光の現象として映し出すのです。前庭には屋根がないのでもちろん雨は降りこんできますし、風が吹けば木の葉が落ちたり、水面が揺れます。

水深は5センチと浅くし、水面の動きをきれいに見せた。トップライトは水漏れしないように1枚の大判のガラスを使用。水を循環させたり大雨の際にオーバーフローで排水されるように工夫し、部屋の中には水が入らないよう工夫している。

現代人が忘れてしまった、雨にまつわる感情を思い起こさせたい

Photo : Masumi Kawamura

日本は雨がすごく多くて、雨にまつわる言葉がいっぱいあるんですね。たとえば、秋雨、春雨、夕立。それ以外にも、「ザーザー」「ぱらぱら」「しとしと」というように、雨の振り方を表す擬音語もたくさんある。そうやって昔は、雨が作り出すリズムや表情に様々な名前を付けたり、それらに自分の情感までもを投影したりしていたのに、現代では雨は「雨」という1つの表現になってしまった気がします。

もともと農耕民族だった我々にとって「めぐみの雨」という表現からも分かるように、雨はありがたいものだった。なのに、いつからか服が濡れるだとか靴が汚れるだとかといったネガティブなものでしかなくなってしまって。僕はこの建築で、雨に対する振る舞いや感情に似たような感覚を呼び起こし、日本人の雨に対する豊かな感性を取り戻したいと考えたのです。

本当の豊かさや快適さとはなにか

庭先に水を撒くとか、春や秋は窓を開けて心地よい風を部屋に入れるとか。そういうちょっとした知恵みたいなものは、知っていてもなかなか実行できないものです。だけど、実際にやってみることでずいぶんと快適さが変わることを体感し、そしてそこに豊かさを見出すことが大切だと思っています。

エアコンが現代の生活を快適にしてくれたのは確かですが、失われたこともたくさんあるということを、家を建てる人には理解してほしいと思っています。

特に初めて家を建てる場合、どうしても見た目のかっこよさなど、分かりやすいものを重視してしまう傾向があると思うんです。だけど、目に見えない豊かさや快適さをどう生み出していくか、というところが本当は大切なのです。これは、時に建築家でも忘れがちな部分でもあります。僕はそこを忘れないよう、大切にしていきたいですね。

中村拓志(なかむら ひろし)
1974年東京生まれ。神奈川県鎌倉市、石川県金沢市で少年時代を過ごす。1999年明治大学大学院理工学研究科博士前期課程修了。同年隈研吾建築都市設計事務所入所。2002年にNAP建築設計事務所を設立し、現在に至る。地域の風土や産業、敷地の地形や自然、そこで活動する人々のふるまいや気持ちに寄り添う設計をモットーとしている。
代表作に「狭山の森 礼拝堂」、「Ribbon Chapel」、「Optical Glass House」、「録museum」など。
主な受賞歴にJIA環境建築賞、日本建築家協会賞、リーフ賞大賞などがある。
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中村拓志氏のインタビュー第4弾、いかがでしたか。
中村氏のお話を聞いて、雨の日が楽しくて仕方なかった頃を思い出し、とても懐かしくなりました。改めて暮らしの「豊かさ」について考えるよいきっかけを与えていただきました。


次回は那須にあるテントのような形の住宅についてお話をうかがいます。お楽しみに!

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