日本の伝統を再生する[着物アート]第一人者、金森美穂インタビュー

多くの家庭でタンスの中に眠っている「着物」に着目し、畳み込みという技術をもってアート作品として再生する「着物アート」。その生みの親である和宝の金森さんにインタビューし、その成り立ちや思いについて語っていただきました。

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後ろの作品は、ふんだんに金彩装飾が施されている平安絵巻の着物アート。光のあたり方でまばゆいばかりに輝く豪華なつくり。その輝きには思わずため息がでる。

金森美穂
埼玉県所沢市出身。キャリアウーマンとして海外を中心に活動する中で、日本の伝統工芸等を海外に発信したいと模索。そしてどこの家庭にも眠っている古い「着物」に着目し、インテリアの装飾品として 「着物アート」を発案。海外でも大きく評価され、日本文化の浸透に努める。

幼少の頃の「着物」の記憶とキャリアウーマン時代

私は埼玉県の所沢というところで育ったんですよ。自然豊かで米軍基地が近くにあって、 そこの基地跡で探検をしたりしていましたね。小さい頃は男の子と一 緒に遊んでいたので、自分は男だなとちょっと勘違いしているところが ありました(笑)。父方の祖父が呉服屋をやっていたので、田舎に遊びにいくと、寝るときは浴衣ですし、お正月はみんな着物を着ていました。外で駆け回る性格だったからこそ、着物で動きを制約されることによって、そのときは静かに本を読むとか、そうやって楽しんでいたような気がしますね。 大学の頃はバリバリの理系で実験などに明け暮れていたので、着物を着る機会っていうのは、お正月と夏ぐらいしかなくなっていきました。実は大学のときにキャリアウーマンになりたいという夢があったんですよ。でもその時は皆がやっていた英語ではなく、着付けを学んだんです。一生懸命練習して四ヶ月で全てを習得する事が出来ました。

大学卒業後は貴金属関係の小さな化学工場に就職して、結構自由に実験などをやらせてもらって楽しく仕事をしてました。出産と育児休暇を経て会社に戻ったものの、評価につながらないんです。10 年勤務して全てのラインとか解決策が見えるようになってきたのになんでって。評価を追い求めて毎日悔しい想いしてましたね。それで色々考えてようやく気がついたんです。ここには私を評価する術がないんだ。だから評価されたいなら誰が見てもわかる技能を身につけようって。結局英語をやろうって決めたんです。35歳のときです。葛藤から脱出して英語習得にチャレンジしている傍ら、ある化学物質の大量合成に成功したことで、大学ベンチャーから誘われて転職したんです。大きな転機でしたね。おかげさまでこの時勉強していた英語が役に立って5年間技術営業部長として特に海外展開を中心に活動しましたね。なんと海外での売り上げは前年度比400%なんて時もありました。さらに海外中心で活動したいという思いがあって、当時取引があった外資系企業に転職して、日本支社の代表取締役も 3 年間勤めてきました。

しかし日本の技術を海外に紹介して、日本で培ってきた材料を海外に売り込む活動していたんですけど、なかなか受け入れてもらえなかったんです。でもその時には理由がわかりませんでしたね。その後、日本支社の閉鎖に伴い代表取締役も辞任して時間的余裕ができて、海外に仕事抜きで滞在する機会が多くなったんです。 海外に行って様々なところを旅しているときに見たものとして、ライトアップされたゴージャスなホテルでも300 年くらい経っているから床がギシギシだし、扉も完全に閉まりきらないなんて光景は当たり前でしたね。ロンドンのトップクラスのエリアでさえ、 道路はガタガタだし。でもみんな古きを重んじて生活している。わたしたちならスロープがなきゃダメじゃんって思うところでさえ階段だし、エレベーターだって年季の入っているものだし。でもみんなそこから幸せそうに出てくるんですよ。「なにこのエレベーター」って文句言っているのはわたし一人ってことに気がついたんです。そこに気がついたときに初めて、自分は間違えてきたんだと思いましたね。日本のなかで培っている技術を無理やり海外に押し付けようとしてきたんだなって。日本の伝統工芸や文化を海外に発信したいと考え始めたのはこの頃からですね。

着物アート誕生の瞬間

やっぱり日本ってすごいんですよね。そこで、もっと海外の方に押し付けをせずに受け入れてくれるものってないかなと思ったときに、外国人である主人が和風の雰囲気が好きで、海外に家を建てる時は畳の部屋にしようって話してて、その時に「日本の伝統工芸を発信しよう」って思ったんです。様々な技術を積み重ねて完成させる伝統工芸品、私たち見る者をこれだけ感動させる、だから着物ってきれいだし,漆塗りは美しいですよね。

当時,海外に行く際、現地のお友達にプレゼントしようって、着物でガウンを作ったんです。でも全然綺麗じゃないんです。違う着物でチャレンジしてみたんですけど、着物の美しさが無くなってしまっていて、プレゼント出来るようなガウンは出来なかったんです。柄が綺麗な着物で試そうって留袖を買ったんですが、主人が「こんな美しい物、絶対切ったらダメ」と言ったんですね。切ったらダメ、じゃあどうしようとスイッチが入り、タペストリーにしようとか、でもそれでは着物が痛むとか、やっているうちに畳み込みという形になったんです。

最初、試験的に私の着物を使って畳み込みをやったんです。それからリサイクルショップにも足を運んで、実験している気持ちでほんといろんな種類の着物を買って試してみました。何十枚も「畳み込み」して、ようやく今の形に至ったんです。どの着物も美しく変身して、その都度驚いていましたね。

滅びゆく着物文化を再生

その過程のなかで、自分たちのやっていることの意味に気づいてきたんですよね。着物 にダメージを与えず、アートとして保存できる。着物の居場所が着ること以外全く無いなかで、これだけ腕のいい職人さんが生み出してきた着物を違った形で再生できる、いわゆる着物文化の消滅を防いでいるということに気づいたんです。

母に「滅び行く着物文化を再生させているんだね」と言われた時には、嬉しくて涙が出そうになりましたね。「畳み込み」を重ねて行くうちに、目の前で着物の柄が生まれ変わっていくんです。奇跡が起こっているような気持ちを何回も体験しました。大切にされている着物、でももう着る事が無いとわかっている着物がそうした時、ご家族は相当嬉しいんじゃないかなと思うんですよね。

私は綺麗な新しい着物よりも、古い着物に焦点を当てて、畳み込みをしています。そこに携わってきた職人さんの腕がその着物に今も生きているんです。輝きを失うこと無くそこにあるんですよね。畳み込みでそれがどこまで甦るのか、古い着物でこそチャレンジしてみたいという思いで作品にしてきました。

女性のための仕事にしたい

ビジネスで女性として苦労した経験から、この「畳み込み」を、とくに女性が携われる仕事にしていきたいんです。畳み込み事業を通して日本の伝統文化を学び伝承していく人間を育てる。そしてそれを世界に発信できるように英語などを学べるような環境もを作り、経済的にも満足できる環境を作りたいと考えています。

着物はごまんとあるだろうし、すごくいいものはタンスに眠ったままなんですよね。畳み込みが浸透して一般の人たちができるように助けてあげれば、一生に一度や二度しか着ない貴重な着物を、額に畳み込んで飾り、解いて着て、また額の中にいれることができるようになるんですよね。

和洋折衷に似合うもの

この着物アートは「和室に置く」という概念で使おうと思ってしまうかもしれませんが、現代のモダンな空間にこそ取り入れてもらいたいと思っているんです。伝統工芸と一緒に暮らしましょうよって。実際にモダンなリビングに飾ってみると違和感は全く無く、不思議と一体感すら感じるんです。是非和式様式問わず、インテリアとしてこの着物アートを日常生活に取り入れてもらいたいですね。また,例えば老舗旅館等で歴代女将の着物を畳み込みして、廊下等に飾ったらお客様もアートと歴史を同時に楽しめると思うんです。

過去から未来へ、着物に携わっている人への想い

着物をアートに変える事で、結局誰が幸せになるかなと考えるわけですよ。私が手掛けている作品に関わった存在がたくさんあるんです。図案を考える人、下絵を描く人、色押しや地染めをする人、道具を作成する人、搬送したり販売する人、着物を作る材料もそうです。絹は繭から、絵の具は植物や鉱物から、そして最後にそれを着る私たちがいます。この着物を私たちに着られるまでには、数えられない人たちの想いがあるんです。一枚の着物、そのたった一枚の中に無数の想いが生きているんです。人の魂が後世に受け継がれていく、それって作品として残していく事が重要だと強く思います。着物が「着るもの」として役目を終えた後、畳み込みによってアートとして今現在の中に居場所ができる。過去の素晴らしい技術もさることながら、様々な修行を積んだ職人さんが関わった着物が、アートとして受け継がれていくんです。そして、今活躍している職人さん達のモチベーションにつながっていくといいなと思っています。畳み込みを通してこのメッセージをみんなに伝えたいですね。

最後に、和宝としては今年の5月初めて展示会に出展しました。原宿で開催された世界30カ国・150のアーティストが参加した国際アートフェアなんですが、沢山の人に興味を持っていただき、多くの関係者の方々と交流できました。この展示会の後、イギリスのロンドン、ドイツ、フランスのパリ、オランダのアムステルダム、スペイン、オーストリア、アメリカなど多くのイベントやギャラリーに招待をいただいています。さらに、2015年の東京デザインウィークで100人展に選ばれ、この事は今後の活動に大きな原動力となりましたね。
5年後東京オリンピックが開催されますが、その時にギャラリーを出せればよいなって考えています。これは外国からのお客さんにとっても、日本を紹介する理想的な展示の場になると思うんですよね。
ですので、和宝としては国内外問わず、「Living with Kimono Art (着物アートと共に暮らす)」これをテーマに一緒に活動していくビジネスパートナーを必要としています。


Photo:木下誠
Interviewer:小久保直宣(LIMIA編集部)

●取材協力
和宝(Wa-Dakara)
埼玉県所沢市こぶし町31-20
04-2907-3462
http://www.wadakara.com

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