エネルギーを中心に町を作る。

〜 建築家・蘆田暢人氏インタビュー 〜

住宅や商業建築、公共施設などの設計をする傍ら、エネルギーから生まれるコミュニティ作りの活動としてENERGY MEETを設立し、東京とバンコクを拠点に活動している一級建築士・蘆田暢人氏。エネルギーをデザインするという新しい切り口を提唱している今最注目の建築家だ。そんな蘆田暢人氏に今後のエネルギーと建築の関係性について尋ねてみた。

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「建築」そして「エネルギー」との出会い

編集部(以下編):蘆田さんが建築に目覚めたのはいつ頃ですか?

蘆田暢人氏(以下蘆):小さい頃から目指していたわけではないんですが、昔からデザインするということは好きでした。建築ってただ建物を設計すればいいわけではなくて、その周りに環境や風土、土地、そして依頼をする人など様々なことを一つにまとめて作り出すことだと思い、魅力を感じ始めたのは高校2年生くらいの時でした。工業製品のように同じものが大量に生み出されるということではなく、一つ一つに個性があるということが面白そうだなと思いこの道に進みました。そして「大きいこと」も建築の魅力だど感じました。

編:なにか影響を受けた書物などはあるんですか?

蘆:モノの成り立ちに興味があるので、木工図鑑みたいな本を見るのは好きでしたね。あと影響を受けたと言えばヨーン・ウッツォンですね。シドニーのオペラハウスで有名な建築家ですが、彼の作品が持つ、光と空間が作り出す空気感に惹かれました。

蘆田さん所有のウッツォンの写真集に掲載されている作品「バウスベア教会」。

蘆:建築の専門書ではなかなか感じることのできない空気感っていうのがあるので、写真家の作品集をよく見たりします。その建物自体ではなく、その建物がもつ空気感の捉え方というのは写真家によって様々で刺激的でもあるので、こういう写真集を見てその空気感からインスピレーションを受けることが多いですね。

蘆田さんがインスピレーションを受けたという図書館の写真。カンディダ・ヘーファー『LIBRARIES』より。

編:蘆田さんはエネルギーについて活動をされていますが、それはいつ頃からなんですか?

蘆:学生の時にロンドンにあるAAスクールのサマーコースに通っていて、当時その学校に在学していた彼(オオニシタクヤ氏 現ENERGY MEET共同代表)と出会ったのがきっかけです。彼は卒業後はタイで活動していて、日本に帰ってきた時などにエネルギーについて色々と話し合ったりしてました。本を買いだしたり、本格的に僕がエネルギーに興味を持ち始めたのは2001年頃からです。

写真左がオオニシタクヤ氏。蘆田氏と活動するデザインユニット「ENERGY MEET」の共同代表、そして慶応義塾大学環境情報学部准教授も務める。蘆田氏がエネルギーに対しての活動をするきっかけとなった旧友だ。普段は大学講師と設計士として別々に働いているが、エネルギーに関するプロジェクトは合同で行っている。

「エネルギー」と「建築」の関わり方

編:建築とエネルギーの接点を考え始めたきっかけは何ですか?

蘆:当時は太陽光パネルなどの技術はありましたが、自然エネルギーに対してはまだまだ盛んではなく、北欧で風力発電などが出始めた、ちょうどそんな時代でした。それから10年位経過した2010年頃には、かなり普及し始めてきて、それまでは個人が作ることがなかなかできなかったエネルギーに簡単にアプローチできるようになってきました。そうなるとそこをきちんとデザインしていくことが必要なのではと思い始めたのがきっかけです。というのも、人と技術を結びつけることがデザインの本質だと考えているからです。

事務所内に陳列されているのは、ENRGY MEETの活動として発行しているENRGY MEET MAGAZINE。

編:建築とエネルギーの関わりについて、どういうお考えをお持ちですか?

蘆:よく勘違いされるのですが、建築とエネルギーと言うと環境建築、つまり「省エネ」とか「エコ住宅」とかそういう観点で認識されがちなのですが、僕がENRGY MEETで活動をしているのはそういうことではないんです。例えば、昔は薪で五右衛門風呂を炊いて「湯加減どう?」みたいな、エネルギーを通じてコミュニケーションが生まれていましたよね。

それが現代では建物はハイテク化していった代わりに、それを使っている人との関わりが薄くなってきて、建物は建物、人は人という関係性になっています。僕が考えているのは「囲炉裏」のように、そこにエネルギーがあるから人が集まってくるようなコミュニケーションツールとしてのエネルギーと建築の関係性なんです。

編:それは現代で言うと実際にはどういう状況ですか?

蘆:建築というより「町」というもっと大きいレベルで考えています。ここ3〜4年は長野県の小布施という町で活動しているんですが、この町はりんごとか栗の栽培が盛んで、育てる過程で枝の剪定が必要になり、切った枝葉が大量に出ます。それを今は単に燃やしているのですが、例えば公共施設に電気を作るボイラーを設置して、みんながそこに剪定枝を持ち寄る。そして持ち寄った人が併設したカフェで無料でコーヒーが飲めたりするような町の寄り合い所にするとか、そこで作られた電力をその施設で利用していくということができます。ゴミを処分するというネガティブな要因が元でみんなが自然に集まって、それがエネルギーになってさらにはコミュニティにつながっていく、というような仕組みをうまく作れないかと活動を進めています。

公共的な建築とエネルギーがあることで地域の中心になって、日常みんなが使う場所としても非常時に集まる場所としても、自活して機能するコミュニティの場になればいいなと感じています。

事務所内に無造作に置かれている照明は、実は以前は道路を照らしていた街灯。旧「ナショナル」のロゴが懐かしい。

編:建築家として地域のコミュニティにどう関わっていますか?

蘆:なぜ僕がそういう活動をしているかというと、最終的に必要なのは「建築」だからなんです。人が集まるところには、例えそれが屋根一枚だとしても建築が必要なわけで、そしてそれは何でもいいわけではないですよね。使う人が心地いい場所を設計しなければならないわけですから。建築に触れずに1日を過ごすひとなんていないので、最後に必要なのは建築(場所)なんですよ。

そういう理由から、最後に「じゃあ設計してください」と頼まれるのではなく、最初から関わっていくことで出来上がる形があるのではと思って活動をしています。様々な活動の果てに必要なのが建築、最後に必要なその建築を作りたいと思っています。建築家がエネルギーだとかコミュニティだとかを考えないといけないと思っているのはそういう理由ですね。

蘆田暢人(あしだまさと)

1975年 京都生まれ
1998年 京都大学工学部建築学科卒業
2001年 京都大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了
2001〜11年 株式会社 内藤廣建築設計事務所勤務 設計チーフ、取締役・設計室長を歴任
2012年 株式会社 蘆田暢人建築設計事務所を設立
2012年 株式会社 ENERGY MEETを設立



取材・撮影:小久保直宣(LIMIA編集部)
取材協力:蘆田暢人建築設計事務所

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